研究概要 |
各研究者は、課題とする分担領域において基本史科の菟集に精力的に従事する一方、従来の諸研究を整理して学説史的検討を加えて、問題点の明確化に専念した。かかる基礎的作業に加えて、春秋戦国秦漢時代を分担した山田は、中国古代金融史の理解には、「貨幣」そのものに対する考察が不可欠との認識から、貨幣をめぐる諸問題,発行,流通,機能,特に国家財政との関連を追究するとともに、貨幣経済の担い手たる商人の多様なる利潤獲得の手段と方法に関してその具体的把握につとめた。六朝期担当の安田は、極度の史料不足を改めて痛感させられながらも関連史料の多角的分析にとりくみ、唐代になってはじまるとされる複利計算法か、六朝期にさかのぼって存在していたことを確認し、この時期に出現する特異な短陌銭現象もかかる経済状況と関連させてこそはじめて理解し得るのではないかとの予測のもとに考察を重ねた。随・唐時代を分担した船越も、除陌銭問題を中心にとりあげ、国家財政なる見地から商取引税,短陌銭慣行に関して基本的研究を準備した。対して、格段に金融関連諸事象が発展し複雑化する宋・元時代担当の熊本は、北宋時代初期に焦点をしぼり、この時期に活躍が著しい南方出身の実務派官僚と切っての政治的実力者劉太后との結びつきに注目して分析を加え、手形(交引)を基本とする北宋期専売制度の形成過程を、具体的な政治史に即して捉え直す考察を深めた。更らに、明・清の両時代を分担した寺田は、ライフ・ワークたる山西商人の多様な経済活動の具体的実態的究明に一層努力を傾け、特に山西票号の形成・発展過程の解明を期して史料菟集につとめ、従来、全く看過されてきた重要な先行研究を発掘するなど、大きな成果をあげた。
|