研究概要 |
今年度に計画した三つの研究課題:(1)高温超伝導体の電子状態, (2)半導体不純物クラスター, (3)クラスター・表面界面系については, いずれも所期の成果を挙げることができた. 以下課題ごとにその成果を述べる. (1)高温超伝導体の電子状態:上村は, 白石賢二(D3), 島信幸(助手), 押山淳(NEC基礎研), 中山隆史(千葉大・理)の協力のもとに, La系高温超伝導体の全エネルギーとバンド構造を, スピン偏極を考慮した局所スピン密度汎関数法によって自己無撞着に計算し, La_2CuO_4について具体的な成果を得た. その結果によれば, 全エネルギーの計算から反強磁性絶縁体相の方がスピン非偏極の金属相より安定なこと, 磁気モーメントが銅のサイトに局在して0.43μ_Bの大きさをもつことなど, 実験事実とよく一致する結果を得た. また松野俊一(M2), 斉藤理一郎(助手)との協力のもとに, dz^2軌道のホールに起因するスピン・ポーラロン対が超伝導に寄与する発現機構のモデルを講築し, 2価イオンをドープしたときの臨界温度の濃度依存性に関する計算を行った. (2)半導体不純物クラスター:上村は, 江藤幹雄(M2)の協力のもとに, MultiーConfiguration(MC)SCF変分法をPをドープしたSiの中間濃度域に適用し, クーロン及び交換相互作用のみならず電子相関の効果を部合的に取り入れることにより, アンダーソン局在状態が電子対をつくったスピン1重項のクラスター(約9割)と約1割のスピン3重項クラスターの集合平均でシミュレートできることを示した. (3)クラスター・表面界面系では, 分子クラスターの電子付着断面積を, 強結合電子・格子模型によって解析し, エネルギー依存性, サイズ依存性, 同位体効果等を明らかにし, 実験データの説明を行った. また, 電界脱離の基礎理論を作り, 脱離速度の温度依存性が透熱極限から断熱極限へ, どのように推移するかを明らかにし, 振動数因子を支配する要因を解明した.
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