研究概要 |
半導体超薄膜ヘテロ構造は電子の量子力学的波動性が顕在化する故, 様々な新物性を有しており, 各種の高速デバイスの実現に利用されつつある. 本研究では, 量子井戸レーザ(QW-LD), 共鳴トンネルダイオード(RTD)および高電子移動度トランジスタ(HEMT)について, 応答速度を支配するキャリアの動的過程に検討を加え, 以下の知見を得た. (1)QW-LD:量子井戸中では注入されたキャリア密度が3×10^<11>/cm^2を超えると, 励起子状態が崩壊し, これに伴なって発光再結合過程は2次元キャリアのバンド間光学遷移が支配することが予測される. 本研究では, 電子密度〜10^<12>/cm^2の量子井戸でピコ秒分光法により再結合寿命τを調べ, 超低温ではτが400ps程であるが, 温度を上げるに伴い単調に増加し, 300Kでは10nsにも達すること, これらの特性が上記の理論でよく説明できることを示した. (2)RTD:二重障壁構造では電子が多重反射されるため, 共鳴トンネル過程には, ある時間遅れτ1が生じる. 本研究では, ピコ秒分光法を用いてこの遅れを直接測定しτ1が障壁の膜厚LBを増すに伴って指数関数的に増大すること, 測定結果は多重反射理論でよく説明できることを明らかにした. (3)HEMT:二次元電子の速度(移動度)-電界特性をパルス・ホール効果法で調べ, 電子速度が通常の飽和特性を示し, 飽和速度Vsは温度を下げると増大し, その依存性が光学フォノン散乱モデルで説明できることを明らかにした. 又, スイッチ時間τsの究極限界は, チャンネル距離LをVsで割った究極走行時間でτmin(=L/Vs)で定まること, しかし, 通常のFETではD1/V電子移動度が10^5cm^2/Vs以上でない限り, 電子加速が不十分となり, 走行時間がτminよりはるかに大きくなることを示した.
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