研究概要 |
種内に移動性個体と定住性個体の2型をもつ昆虫は多い. これら2型の増殖率を16種について測定し比較した. その結果移動型は定住型個体より増殖率は低い. しかし生息密度の高まりや環境条件の悪化により移動型を産出する相変異タイプの種(ウンカ類バッタ)では両型の増殖率の差は著しく少ない. 一方季節的移動種(イチモンジセセリ)ではその差が大きく, 両方の性質を兼ね備える種(アブラムシやアメンボ)ではその中間となることが判明した. これは移動と増殖という相矛盾して生存努力へのエネルギーの配分様式が種の生存様式とのかかわりで種ごとに決定されていることを示しており今後の移動性昆虫研究のうえで重要な作業仮説となり得る. 以上の観点を基礎におき, この研究ではウンカ類, カタビロアメンボ類の移動多型と増殖率の関係, 翅型多型に関与する環境要因およびその背後に存在する遺伝的機構を明らかにした. さらに量的遺伝形質に関する解析モデルを適用し遺伝率の推定なども行った. 季節的移動を行う典型種であるイチモンジセセリの多型間増殖率, 飛翔力の比較を行った. この研究では秋の移動虫のほか越冬後の羽化成虫も移動する可能性が示された. 移動方向のオリエンテーションに地磁気が関与しているかどうかが実験的に検討された. その結果地磁気関与の可能性は否定的であった. 方向別捕獲可能なマイグレイショントラップを用いて野外の鱗翅目昆虫の移動実体を調査した. イチモンジセセリの移動性と季節的寄主グラス転換の関係から卵サイズの季節多型が重要であることが分かった. この研究からセセリチョウの卵サイズと寄主グラスの葉の硬さの間には相関関係があるだろうという仮説がたてられ, 実証された. 非多型性分散を行うツマグロヨコバイ類の密度調節機構を明らかにするため4種のヨコバイ類の生息密度に対する感受性が増殖形質に関して測られ比較された. 昆虫の移動に関する最近の研究をレビューした.
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