研究概要 |
我々は、市販のHras蛋白p21の抗体(Ward抗体,Schlom抗体)を用いる組織化学検討の結果、その特異性にはかなり問題があることを認め、抗体の特異性を検定することが必要であるこという結論に達した。癌遺伝子産物の組織化学は、今後急速に進展すると考えられるので、成果の厳格な評価が不可欠である。また、この点を克服するために、新にペプタイド合成で抗原・抗体を自作し、組織化学上の特異性の問題点を究明することの必要性を認めた。癌遺伝子abl,H-ras,myc特異抗原について、現在検討中である。市販,自作のH-ras抗体の正常,腫瘍組織蛋白との免疫反応の特異性を、免疫沈降法,Western-blot法,組織化学などで検討し、ついでヒトの癌,白血病,胎児、正常組識に組織化学的に適用し、Northern-blot法で対比検討している段階である。 一方、糖尿病のラ氏島や甲状腺髄様癌のアミロイドはペプタイド・ホルモンに由来するとされるが、糖尿病や腫瘍に合併すること、分子異常が証明される例があるなどから、これらは、インスリンやグルカゴンなどの分子異常により活性に異常のあるホルモンの過剰分泌による異常沈着と考え、宿主,腫瘍のDNAを抽出して、遺伝子工学的手法を用いて、遺伝子の異常,病的沈着物の本質を検討中である。これまでの研究では、日本人糖尿病患者のインスリン遺伝子,HLA遺伝子の多様性について報告してきたが、今後はインスリンの分子異常を、ラ氏島アミロイド沈着を伴う糖尿病例に焦点をあてて解析を予定している。従来、このようなDNAの分子異常の解析には、新鮮組織からのDNAで解析が行なわれてきたが、ホルマリン固定組織標本からのDNA解析方法を利用し、固定済の病理標本からDNAを抽出し、遺伝子解析行なうことを検討している。以上のように、本研究は、病理組織標本材料に遺伝子解析を適用するもので、新しい成果を目指す。
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