研究概要 |
本研究は2つの主題に大別することができる. 1つは, 視覚イメージの基本的特性を扱った研究(報告1, 2及び3)であり, 他は, 記憶・理解における視覚イメージの機能に関する研究(報告4及び5)である. 報告1では, 多角閉図形のイメージを面上に投影し開眼状態でそれを走査する条件, 当該イメージを頭の中に生成し閉眼状態で走査する条件, 眼前の当該図形を知覚走査する条件の3つを用い, 図形線分の総長及び角数を変数として各走査時間を分析した. 推定された走査速度及び直角あたり停留時間に基づき, 報告2では, 3条件の速度で移動する小点を視覚追随させ, その軌跡が形づくる図形のイメージを描画させて, 描画の形態性等を検討した. これらの結果から, 視覚過程と視覚イメージ過程の類同性, 更には視覚イメージの特性にかかわる本質的議論への接近を試みたが, なお多くが課題として残された. 報告3では, 仮想立体地理模型及び平面地図を用いて認知地図を形成させ, 地点の再認反応時間, 地点間距離判断, 地点間イメージ走査, 距離判断と地点間ルートの関係等を介して, 空間対象的イメージ特性の検討を試みた. 実験結果に当初の予測は十分反映されなかったが, 次の研究展開への幾つかの示唆は得られた. 報告4は, 文章記憶における文章の意味的関連性と記銘方略を取り扱う中で, 視覚イメージの機能を論じたものである. 大学生及び小学生を被験者とし, 対象の位置関係を記述した4単文からなる意味的関連及び無関連パッセージを4通りの記銘方略で記銘させ, 直後及び遅延再生を求めた結果に基づき, 記憶情報格納の性質及びイメージ想起リハーサルの有効性等について論じた. 報告5では, 日常的な状況記述文として野球実況を用い, その記憶・理解と知識水準及び先行情報との関係を取り扱ったが, イメージの機能との関わりでの議論は今後に残された.
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