1.兵庫県赤穂市の「松岡家文書」のなかにある原村の宗門人別帳をもちいて幕末期の約80年間にわたる家族構成の周期的変化をつきとめた。今回の研究で得られた知見を要約すれば次のようになる。(1)約80年間の家族構成の周期的変化は「無配偶子女を含む世帯」→「有配偶子女を含む世帯」→「傍系親族を含む世帯」→「直系尊卑族を含む世帯」を主要回路として変化する。(2)主要回路の周期の長さはおよそ28年である。(3)家族形態の周期的変化を決定する条件は隠居、相続、分家などの慣行を含めた家族制度である。原村の場合には長子相続であり、圧倒的に死に譲りが生き譲りよりも多いことおよび村内での分家を家株によって制限していることなどが明らかとなった。このことは家族構成の周期的変化を明確にしている一因として考えられる。現在家族形態の周期的変化の契機(理由)を詳細に検討していることである。(4)家族周期の長さ(1周期)や、出現する形態とその持続期間を決定するのは初婚年齢、有配偶率、出産率、平均余命などである。これも現在分析中である。 2.今後の研究の展開に関する計画としては、原村における家族形態の周期的変化を決定する要因を解明すること、初婚年齢、有配偶率、出産率、平均余命などのライフサイクルにおける人口学的、基本的出来事(evemts)を追跡することによって家族周期のモデルを再構成すること、さらに分析の単位を宗門人別帳の集合的構成単位に置くのではなく、個人単位に措定し、個人の生涯の軌跡、すなわちライフコース的視点による分析などを試みる予定である。
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