研究概要 |
1.英国左翼におけるAlternative Economic Strategy(AES)の形成について。-1960年代末〜70年代半ばの世界的な労働攻勢の一環として英国労働党は1926年以来という労働運動の高楊に乗って74年に政権を握ったのであるが、この74年選挙綱領の根幹部分がその骨子をなし、のちにトリビューン派,TUC,共産党を含む左翼全体の共有するところとなるのがこの対案経済戦略AESといわれる。戦時体制の挙国一致的経験を生かそうとする公共的投資機関設置・再国有化・大量失業克服としての拡張策等に特色をもつAES的主張が左翼に共通する戦略となる基礎には、左翼全体に深く根をおろしているKeynes/Beveridge consensusの存在なしには考えられない。 2.労働者投資基金構想の背景とポスト福祉国家の展望について。-強固な労働運動と社会民主労働党の長期政権を前提とした。KeynesやBeveridgeに先行する型で展開された1930年代〜60年代における、いわゆる歴史的妥協体制下の完全雇用と活性的産業投資との両立的追求過程の実証的検討をとおしては、高度福祉国家の歴史的位置づけとその存立諸条件の解明に一定の展望がみえてきたように思われる。我々が注目するのは、超完全雇用状態下における、資本と労働力の流動性の確保、つまりRehnモデル・EFOモデル-完全雇用下の追加労働力創出と継続的技術革新・産業再編成メカニズムである。逆説的であるが、平等化を追求する強大で中央集権的な労働運動が、限界的な過剰資本としての低利潤企業の稼働を許容せず、たえずこれらの過剰な資本と労働力とが高利潤部門に流動化されつづけたところにこそ高度福祉国家の不可欠な存立条件があったのである。この点の解明はAES的な産業投資機関構想や再国有化,民営維持前提の労働者投資基金構想の性格把握にも有益である。
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