他の作物と異なり、果樹の育種が飛躍的に発展しない背景の一つには、幼木相(Juvenile phase)の長さがあげられる。そこで、幼木相期間をできるだけ短縮することが、果樹の育種年限短縮につながるものと考えられる。しかし、この幼木相の期間は果樹の種類によって著しく異なる。そこで、播種後、初咲きまでの期間が10年以上もかかるカンキツ類とそれが比較的短年月のブドウを材料に用いて、花芽誘導をできるだけ早める方法を模索した。その結果、カンキツ類に関しては植物生長調節物質との関連で、花芽誘導がみられる枝葉中とそれがみられないものとのチッ素含量(N)及び炭水化物含量(C)を比較したところ、C/N率と花芽誘導との間には明らかな傾向が認められなかった。しかし、9月ごろの葉中のタンパク質を電気泳動装置を用い測定したところ、翌春、花芽誘導が期待されるタンパク質の泳動パタ-ンの中で500キロダルトン付近のバンドが、花芽誘導の期待できないものと比べて著しく異なった。また、ジベレリンは、一旦、誘導の行われた花芽を栄養芽に変化させる作用がある。この際もやはり、上記タンパク質のバンドは極めて薄くなる。従って、この特殊タンパク質が、花芽誘導と何らかの関係をもっているものと思われた。一方、ブドウに関して育種年限を短縮するための一手段として、種子および胚の休眠覚醒法について検討し、従来の方法では全く覚醒しないものでも、発芽させる物質が胚乳にあることをつきとめた。
|