研究概要 |
静脈系の機能と構造、ならびにその調節機能に関する生理学的研究の内、本年度は(1)静脈伸展性の部位差,(2)下肢静脈伸展性と筋ポンプ作用との相関に関する研究を実施し、下記の如き結論を得た。 1.静脈伸展特性の部位差 イヌより摘出した頸部,四肢,体幹部の主要静脈標本を用いて、内圧一容積関係を測定し壁の伸展性の部位差を系統的に検討した。さらに、静脈平滑筋賦活時の伸展性の変化についても検索を加えた。あわせて、使用静脈標本すべてを光学顕微鏡により検索し、静脈壁伸展性の部位差を形態学的側面からも考察した。その結果、外頸静脈では、中枢側の伸展性が0.34cm【H_2】【O^(-1)】と最大で、中間部,末梢側の値は中枢側の約70%であった。一方、体幹部の静脈においては、上大静脈と腎下部の下大静脈の伸展性はほぼ等しく、0.22cm【H_2】【O^(-1)】前後の値を示した。これに対し、胸部および腎上部の下大静脈の伸展性は低く、0.15cm【H_2】【O^(-1)】前後であった。また、門脈の伸展性は0.43cm【H_2】【O^(-1)】であり、実験に使用した静脈標本中、最大の値を呈した。形態学的検索の結果、横隔膜を貫く前後の下大静脈には、伸展性における特異性を裏づける形態学的特徴が存在した。すなわち、胸部の下大静脈では、長軸方向の伸展率の増大と、外膜側に密に認められる弾性線維の存在、腎上部下大静脈では、縦走筋の顕著な発達が特徴的であった。これら機能と形態との特性は、横隔膜収縮という強力な外力によって静脈壁が圧平するのを防止していることを暗示する。 2.下肢静脈伸展性と筋ポンプ作用との相関 イヌ後肢の骨格筋筋層間の静脈と皮下の表在性静脈を用いて、壁伸展性・壁構造・静脈弁の分布特性・自律神経支配について検索した。その結果、骨格筋血流量の大きな変化に対応し、筋ポンプ作用の有効性を高めるような機能・形態学的特性の存在が判明した。
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