研究概要 |
本研究においては、薬物の検出について従来の物理化学的方法とともに、酵素抗体法による組織内同定に成功しているので、主としてメタンフェタミン(MA)とフェノバルビタール(PB)の結果について述べる。MA抗体については次の如くにして作成した。まずMAにN-(4-bramobutyl)-phtalimideを加え縮合し、これを単離し加水分解して4-aminobutyl-methamphetamineを作成、次いでglutaraldehydeの存在下でBSAと抱合し、これを抗原としてFreund complete adjuvantとともにウサギに注射した。この抗体はMA、amphetamineに対して反応する他、期待通りbutyl-MAの如き抗原ともcross-reactする。マウス一匹当り1mgのMAを腹腔内に投与し、著しい興奮状態のうちに断頭して直ちに臓器を取出し、各種固定液(メタノール,ホルマリン,glutaraldehyde)により固定し、パラフィン切片及び凍結切片を作成し、酵素抗体法により染色した。結果は、(1)メタノールやホルマリン固定ではMAは組織内に同定されない。(2)glutaraldehydeを含んだ電顕用の固定液はMAの固定には極めて有効である。(3)MAの陽性細胞としては、神経細胞,腎上皮細胞,胃腸管の上皮細胞,マクロファージがある。この陽性反応は抗体にMAを加えることによって完全に中和されるので特異反応とみられる。PBについては、市販の抗PB抗体を用いて、その組織学的検出に成功した。以上の結果から、薬物の組織内同定は酵素抗体法を用いることにより確実かつ正確に施行することが出来、しかも組織内分布の評価は薬理学レベルのそれと同じ程度までになっていることが判明した。これにより薬物の組織化学的分析が飛躍的に向上することが期待できるとともに、薬物中毒の研究を生化学的のみならず、形態学的にも追跡できる道をひらいたことになる。又、市販のすぐれた抗薬物抗体を形態学的に応用することが可能なことをも明らかにした。
|