研究概要 |
タバコモザイクウイルス(TMV)の複製酵素と考えられている130K及び180Kタンパクの合成は、前者の終止コドンであるアンバーコドンを読み通すか否かにより調節されている。そこで、このアンバーコドン及びその近傍に変異をもつ完全長TMV-cDNAを多数作製した。それらは、両タンパク質のうちの一方のみが合成されるもの、180Kタンパクに特異的な領域にアミノ酸の小さな変化をもつもの等である。変異をもつcDNAから、対応する変異TMV-RNAを試験管内で合成し、タバコ植物体を用いて、それらの複製能を解析した結果、180KタンパクがTMVの増殖に必須であることが判明した。また、130Kタンパクのアンバーコドンをオカーコドンに変えても増殖能を失わぬことから、タバコ植物体におけるオカーサプレッサーの存在が予見された。アンバーコドンをチロシンコドンに変えた変異株は、増殖能が弱いながらも感染性を有し、この変異株を用いて複製過程を詳細に解析することにより、130K及び180Kタンパクの機能分担に関する直接的な証拠が得られると思われる。また、180Kタンパクに特異的な領域に1アミノ酸の挿入をもつ変異株で増殖可能なものもいくつか得られた。作製した変異株の複製過程の詳細な解析にはプロトプラスト感染系が有用である。しかし、従来の方法では、少量しか得られない試験管内転写産物を効率よくプロトプラストに感染させることができない。そこで、新たに電気刺激法を導入したところ、微量のRNAで感染可能な実験系を確立できた。この系を用いた予備的な実験から、すでに、180Kタンパクがマイナス鎖合成に重要であることが示唆されている。今後、さらに作製した変異株のゲノムRNA,サブゲノムRNA,マイナス鎖RNAの合成をより定量的に、S1マッピング法,RNaseマッピング法等を用いて調べていく予定である。
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