研究概要 |
タバコモザイクウイルス(TMV)は, 約6400ヌクレオチドの一本鎖RNAをゲノムとする植物ウイルスである. TMVRNAは4種のタンパクをコードし, それらはゲノムの5′末端側からコードされる順に, 18OK, 13OK, 30Kおよび外被タンパクと呼ばれる. 130Kと180Kの両タンパクは同一の開始ユドンから読み取りが始まる. 180Kタンパクは, 130Kタンパク遺伝子のアンバー終止ユドンがある頻度で読み通されることにより合成される. 本研究では, ウイルス学の中心課題の一つである複製に焦点をあて, TMVのコードするタンパクの中で複製に関与するものが何であるのか, またどのように関与するのか等の問題を解くことを目的とした. まず, TMVRNAをcDNAクローン化し, 試験管内転写系を用いて, そこから再び感染性のあるTMVRNAを合成できることを示した. 主としてこの系を用いて, cDNA配列上で操作を行い, その結果として種々の変異TMVRNAを調製し, その性質を詳細に調べた. その結果, 130K及び180K両タンパクが複製に関与すること, また, 効率は悪いが180Kタンパクだけでも複製が可能であることがわかった. 30K及び外被タンパクは複製には不要であった. 130Kと180Kタンパクの細胞内での局在性を, 金コロイド染色法により解析したところ, 両タンパクとも細胞質内に特徴的な感染特異的に観察される構造体に局在することがわかった. 研究の過程で, 試験管内で合成可能な少量のRNAにより効率よく感染を成立させるプロトプラスト系も開発した. さらに, 複製においてシスに働く要素, すなわち, ゲノムRNA上で必須の領域が外被および30Kタンパク遺伝子内にはないこと, ゲノムRNAの3′非翻訳領域と複製酵素の関係はさほど厳密ではないことも明らかとなった. これらの知見は, 今後のTMVの研究において大きな基盤となると思われる.
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