研究概要 |
昭和61年度より上記課題の研究を行っているが, すでにいくつかの興味ある知見を得ている. 前年度は, 染色体凝縮機構が温度感受性で, 非許容温度下(40゜C)では細胞周期に関係なく染色体凝縮(PCC)が起きるハムスター細胞(BHK21)由来のtsBN2株を用いた実験より, X線照射後の染色体凝縮は潜在致死損傷(PLD)を発現させるのを見出した(Radiat Res,109,407〜418,1987). これまで, DNA・クロマチンのコンフォーメーションの変化がPLDを発現させる可能性が示唆されていたが, 実際にそうである事を示したものといえる. 本年度は, 染色体凝縮によって発現するPLDがカフェインや高張塩溶液により発現するPLDと本質的に同じものかどうかを明らかにするため, tsBN2株を用いX線照射後40゜C(3時間)との併用処理の効果を調べた. PLDを部分的に発現させた条件下(0.5MNaC12時間, 1mMカフェイン20時間)では, これら2つの作用因子と高温は相加的に作用するが, PLDを十分に発現させた場合(10mMカフェイン20時間, 0.5MNaCl1時間)には, 高温併用はそれ以上に致死を促進しないので, これらはすべて同一のPLDに作用していると思われる. 一方, カフェインはDNA合成阻害剤の存在下でS期細胞にPCCを生じるという報告(Schlegel等,1986)を確認すると共に, 染色体凝縮との関連からカフェインのPLD発現機構を調べている. S期の細胞をX線照射後にPCCを誘発させると(カフェイン+DNA阻害剤), PLDが発現し致死が促進されるが, PCC誘発を抑える蛋白合成阻害剤を加えると効果が無くなる. カフェイン単独によるPLD発現の場合も, PCC誘発の初期ステップが関与している可能性もあり, BHK由来のtsミュータントを用いて現在調べている.
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