本年度は主にカフェインによるPLD(潜在致死損傷)発現と染色体凝縮との関連について調べた。Schlegel & Pardee(1986)の方法に従い、BHK細胞由来のtsミュータント(8株)をハイドロキシウレア(HU)でS初期に同調してカフェイン(10mM)を許容温度下(33.5℃)で作用させるとPCC(Premature Chromosome Condensation)が誘発された。しかし、カフェイン処理前(4時間)と処理中(3又は5時間)、非許容温度(40℃)下でインキュベートすると、BN75、BN250、BTN1の3つのtsミュータントでpcc誘発が著しく抑えられた。この事はこれらの株のts遺伝子がカフェインによるpcc誘発に関与している可能性を示唆する。このうちBN75はユビキチン活性化酵素をコードする遺伝子がtsであることがすでに明らかにされている。一方、S期に同調された細胞をX線照射後にDNA合成阻害剤下でカフェイン処理(pcc誘発条件)するとPLDが著しく発現した。しかし、pcc誘発を阻害する蛋白合成阻害剤存在下で同様の処理をした場合でも、カフェイン単独処理によるのと同程度のPLD発見が見られ、又カフェイン単独によるPLD発現は蛋白阻害剤で抑えられなかった。これらの事実は、カフェインはDNA合成阻害下ではpccを誘発し、それに伴うDNAクロマチンのコンホーメーションの変化によりPLDを発現させるが、カフェイン単独でも変るかのコンホーメーションの変化を起こさせ、PLDを発現すると思われる。なお、BN75株ではカフェイン単独処理によるPLD発現が非許容温度の前処理により抑制されるので、この場合もユビキチン系(Ubiquittin System)が関与していると思われる。カフェインにより活性化されたユビキチンが染色体凝縮の引き金蛋白合成のリプレッサーをこわしてpccを誘発したり、ヒストンを分解してDNAクロマチン構造を変えることにより、PLDを発現させている可能性がある。
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