BHK細胞由来の温度感受性変異株(ts ミュータント)を用いて潜在致死損傷(DLD)の発現における染色体凝縮(Chromosome Condensation)に伴うDNAクロマチンのコンホーメーション変化の役割について検討してきた。これまでに得た主な知見は次の通りである:1)染色体凝縮開始の制御機構がtsであるBN2株では非許容温度(40℃)下で細胞周期に関係なくPCC(Premature Chromosome Condensation)が起きるが、X線照射後にその様な状態にするとPLD著しく発現する。2)カフェインもDNA合成阻害剤下ではS期に同調されたtsミュータント(8株)に許容温度(33.5℃)でPCCを誘発するが、非許容温度ではBN75、BN250、BTN1株でPCC誘発が抑えられる。3)DNA合成阻害下でカフェインによりPCCを誘発させることによりPLDは著しく発現する。しかし、カフェイン単独処理によるPLD発現はPCC誘発を阻害する蛋白合成阻害剤により抑えられないので、この場合はPCCとは関係ない。4)BN75株を非許容温度で前処理するとカフェインによるPLD発現が抑制される。 以上の結果から、非許容温度(BN2)とカフェインによるPLD発現機構として次の様なモデルを考えている。BN2は染色体凝縮を起こす引き金蛋白のリプレッサー(RCC1)がtsで、非許容温度でこわれPCCが誘発される。一方カフェインによるPCC誘発とPLD発現にはBN75のts遺伝子が関与している可能性があり、これはユビキチン活性化酵素をコードしている事がすでに明らかにされている。カフェインはユビキチン系(Ubiquitin System)を介して、DNA合成阻害下ではRCC1をこわしてPCCを誘発したり、カフェイン単独でもヒストンを分解することによりDNAクロマチンのコンホーメーションを変え、それに伴いPLDを致死損傷として発現させているのではないかと想像している。
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