植物の低温傷害と凍結傷害の分子機構

1988 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62304004
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 吉田 静夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (90001651)
• 研究分担者: 村田 紀夫 岡崎国立協同研究機構, 基礎生物学研究所, 教授 (90011569) ; 松尾 友明 鹿児島大学, 農学部, 助教授 (90041673) ; 坂田 亮 慶応大学, 理工学部, 教授 (10051020) ; 菅原 康剛 埼玉大学, 理工学部, 助教授 (70114212) ; 伊藤 清亮 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (30003099)
• キーワード: 低温傷害 / 凍結傷害 / 飽和脂質分子種 / 液胞とH^+-ATPase / スフィンゴ糖脂質 / 電子顕微鏡 / ^<31>P-NMR

研究概要

伊藤は細胞膜と液胞膜に多く含まれるグルコセレブロシド脂質の分子構造と相転移温度との関係に付いて研究し、スフィンゴ塩基の炭素鎖に導入された不飽和二重結合がcisかtransによって相転移温度が大きく左右されることを明らかにした。村田は常緑広葉樹の葉に含まれるphosphatidylglycerol(PG)分子種を分析し、低温感受性と飽和分子種(dipalmitoyl PG)含量との間に強い相関のあることを明らかにし、この関係は植物一般に成り立つことを証明した。関谷は常緑樹の低温馴化と燐脂質脂肪酸組成について研究し、PGの不飽和化が起こることを明らかにした。松尾は低温による脂肪酸の不飽和化を触媒する酵素の精製法と活性測定法を検討しある程度の見通しを得た。吉田は低温感受性の大きいヤエナリを用いて低温傷害の初期過程を詳細に解析し、液胞膜のH^+-ATPaseが低温で失活することと強い温度依存性のために、低温では機能が著しく阻害されることを明らかにした。そのため、低温では細胞質の酸性化が起こり代謝が乱され細胞が傷害されると推論した。このことは耐寒性の大きいエンドウを用いた対照実験によって確認された。坂田は^<32>P-NMRを使ってヤエナリの幼根の細胞内のpHとATPレベルを低温で測定し、5℃48時間後に細胞質のpHが低下しATPレベルも顕著に減少することを見いだした。この結果は吉田のin vitroの実験結果と良く対応する。藤川と菅原は凍結傷害と細胞膜の超微細構造の関係を電子顕微鏡でしらべ、細胞の凍結脱水による機械的な細胞変形による生体膜間の接触と融合が細胞膜蛋白粒子の形態を変え膜損傷をもたらすことを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Etani,S.,;Yoshida,S.: Plant Cell Physiol.28. 83-91 (1987)
• [文献書誌] Yoshida,S.,;Kawata,T.: Plant Cell Physiol.29. 1391-1397 (1988)
• [文献書誌] Kawata,T.,;Yoshida,S.: Plant Cell Physiol.29. 1399-1410 (1988)
• [文献書誌] Yoshida,S.,;Washio,K.,;Kenrick,J.,;Glenda,O.: Plant Cell Physiol.29. 1411-1416 (1988)
• [文献書誌] Kawata,T.,;Yoshida,S.: Plant Cell Physiol.29. 1423-1427 (1988)
• [文献書誌] Yoshida,S.,;Mtsuura,C.,;Etani,S.: Plant Physiol.89. (1989)
• [文献書誌] Frentzen,M.,;Nishida,I.,;Murata,N.: Plant Cell Physiol.28. 1195-1201 (1987)
• [文献書誌] Nishida,I.,;Frentzen,M.,;Ishizaki,O.,;Murata,N.: Plant Cell Physiol.28. 1071-1079 (1987)
• [文献書誌] Toriyama,S-I.,;Hinata,K.,;Nishida,I.,;Murata,N.: Plant Cell Physiol.29. 615-621 (1988)
• [文献書誌] Yazaki,Y.,;Asukagawa,N.,;Ishikawa,Y.,;Ohta,E.,;Sakata,M.: Plant Cell Physiol.29. 919-924 (1988)
• [文献書誌] Fujikawa,S.: J.Electron Microsc.36. 224-227 (1987)
• [文献書誌] Fujikawa,S.: Electron Microsc.1. 113-140 (1988)
• [文献書誌] Sekiya,J.,;Kosiso,M.,;Morita,A.,;Hatanaka,A.: "MoTecular species compsosition of phosphatidylglycerol in leaves of camellia species and chilling sensitivity.In: The Metab olism,Structurel and Function in Plant lipids." Plenum Press, 377 (1987)
• [文献書誌] Yoshida,S.;Uemura,M.: "Alterration of plasma membranes related to cold acclimation of plants in:Low Temperature Stress Physiology in Crops." CRC-Press, 233 (1989)