研究概要 |
われわれが全DNA塩基配列を決定したゼニゴケ葉緑体ゲノムを材料とし,本年度はとくにイントロンを含む遺伝子を中心に研究を進めてきた. 塩基配列の解析から20個のイントロンが検出され,グループI型の1例を除けば,いずれもグループII型と結論された. これらは自己触媒型のイントロンと考えられているものであり,イントロンのRNA自体がスプライシング機能を具えたRNA酵素とされている. しかしながら,これまでのミトコンドリア遺伝子などでの報告と異なり,葉緑体の場合にはわれわれが試みた限りin vitroでのセルフスプライシングは観察されなかった. 葉緑体内では多分なんらかのタンパク因子の結合によってイントロン部分のRNAが酵素としての適確な高次構造をとるものと考えられる. つぎに,葉緑体の遺伝系が基本的には原核生物型であることを考慮し,大腸〓内でのスプライシングをしらべる実験を計画した. すなわち,イントロンをもつ葉緑体LysーtRNA遺伝子のクローンを用い,アンチコドン部分を人工的に改変したのちこれらを大腸〓に導入して,スプライシングが起ればサプレッション活性として制定できるような実験系を構築した. これらを用いて現在実験を進めている. 一方,われわれが発見したトランス・スプリット遺伝子S12の発現に関しては,葉緑体から抽出したRNAの解析から,遠く離れて分断されている遺伝子部分がそれぞれ別々に転写され,それらのRNA間の相互作用によってエキソン部分が結合しS12遺伝子のmRNAが完成することを確認した. そしてその際のトランス・スプライシングに対するモデルを提出した. すなわち,2つの転写産物がグループIIイントロンのステム3にあたる部分で互に相補的な塩基対を形成し,その結果イントロン構造が完成してスプライシングが起きるというものである. 翻訳領域内におけるトランス・スプライシング機構に関して最初のモデルである.
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