植物ウイルスの防除法として弱毒ウイルスによる干渉作用を利用した方法が温度トマトなどのウイルス病防除法として利用されている。そこで実用化されているトマト系TMV(TMV-L)の弱毒株(L_<11>A)を用い、弱毒性の分子的基盤を調べた結果、複製能そのものには変化がないが、細胞間転移が低下することによって植物体全体としての増殖能が抑えられていることがわかった。この結果を果たして、分子生物学的推論から人工変異株を作製し、その弱毒性を検証することにした。いくつかの人工変異株の中、適当な長さの欠失変異を3'非翻訳領域に持ったTMVが弱毒ウイルスとなることが確かめられた。この方法は今後TMV以外の植物ウイルスの弱毒化にも利用することができるから、その応用面での展開が期待される。 Tiプラスミドを用いて弱毒TMVゲイムの全長cDNAをタバコ染色体に導入し、弱毒ウイルスを発現するトランスジェニックタバコを作出した。このトランスジィニックタバコは正常タバコと同様に生育し、病徴は全く認められなかった。しかし毒性TMVを感染させると強い抵抗性を示し、6週間後にも病徴を示さなかった。タバコ染色体に導入されたTMV-cDNAは安定して次世代のタバコに伝達されたので、この技法は今後新しいウイルス抵抗性植物作出の育種技術として応用されるであろう。 以上の結果、TMVに関してはウイルスの弱毒性に関する基礎と応用の両面にわたって、その初期の研究目的が達せられた。今後はTMVによって得られた成果をもとにして、他の植物ウイルスについての研究が進展するであろう。
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