植物ウイルスの防除法として弱毒ウイルスによる干渉作用を利用した方法があり、温室トマトなどのウイルス病防除法として実際に応用され効果をあげている。しかしながら、植物ウイルスの弱毒性とウイルスが持っている干渉作用の分子的本体についてはほとんど解明されていない。我々は、実用化されている弱毒ウイルス(L_<11>A)があり、かつウイルスRNAの試験管内操作系が確立されているトマト系TMVーLを用い、これらの基本的課題を分子レベルで明らかにする目的で本研究を開始した。その結果次の諸成果が得られ、他の植物ウイルスにおける応用、展開が可能になった。 1.弱毒TMVーL_<11>Aは毒性TMVに比べて感染タバコにおけるウイルスの収量が非常に低いことが知られていたが、その原因はウイルスの複製能の低下によるのではなく、細胞間転移能の低下によることが確かめられた。この結果は、植物体全体としての増殖能を低下させるような変異を導入すれば、ウイルスが弱毒化されることを示唆している。 2.上記の成果をもとにしていくつかの人工変異株をデザインして作製しその毒性を調べた。その結果、3′非翻訳領域に適当な長さの欠失変異を導入したTMVが安定な弱毒ウイルスとなることが確かめられた。この方法は人工弱毒ウイルスの一般的作製法として有用であろう。 3.Tiプラスミドを用いて弱毒TMVゲノムの全長cDNAをタバコ染色体に導入し、弱毒ウイルスを発現するトランスジェニックタバコを作出した。このトランスジェニックタバコは正常はタバコと同様に生育し、病徴は認められなかった。しかし毒性TMVに対しては強い干渉作用を示した。TMVーcDNAは次世代のタバコに安定して伝達されたので、この技法は今後ウイルス抵抗性植物作出の新育種技法として応用されることが期待される。
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