研究概要 |
成熟途上のティラピア雄に同種の成熟精巣の磨砕物とフロイントの完全アジュベントとの混合物を1ないし2回筋肉内に投与すると, その約2週後には処理魚の血清に抗体によるとみられる精子凝集効果の発現が認められ, また6〜8週後には精巣に細胞性反応を主体とする自己免疫反応がみられた. これらの処理魚について, 以下の観察結果を得た. 1.精巣の細胞性免疫反応の主体となる細胞種は, 輸精小管及び精小嚢の内腔に浸潤した單球に由来するマクロファージ系の細胞であり, さらに電顕的に2型に区分され得るリンパ球も, 喰精子作用以外の作用によって精子の除去に関与する可能性が示された. 2.上記の処理を受けた未成熟魚に精巣に惹起された自己免疫反応は微弱で, その後の精巣発達を阻止するには至らなかった. また同処理を受けた成熟途上魚を3〜4か月以上飼育した後には, 処理魚の精巣の輸精小管及び精小嚢の内腔に單球・マクロファージ系の細胞を主体とする巨大細胞肉芽腫の形成が進行し, 精子放出の阻害による精巣の機能的不妊化の可能性が示唆されたが, 精子形成活動そのものへの阻害効果は認められなかった. 3.ティラピアの精巣における精巣血液関門の存在を, HRP及びBSAを用いた電顕組織化学的方法により確認できた. この精巣血液関門は精小嚢壁のセルトリ細胞間の閉鎖帯により, 核クロマチン凝集期中期に完成されることが確かめられたほか, 精小嚢外周の基底膜も関門の一つとして機能し, それが自己免疫化に伴って変化する可能性が示唆された. ティラピアと同じ自己免疫誘起処置を施したキンバョについて, 観察と長期実験を現在も継続中である. さらに抗ラィラピア精子抗血清の作成とティラピア精子膜の單離に成功し, 自己免疫反応と精子表面特異抗原蛋白との関連を検討すべく作業を進めている.
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