ナイルテラピアの雌雄に対する成熟精巣磨砕物の注射は血清中に精子凝集抗体を出現させた。血清の精子凝集能は免疫化1か月後にピークに達し、8か月間の実験期間を通じて相対的に高いレベルにあった。成熟途上の精巣を持つ雄に対する成熟精巣ないし精子の注射は、その約2か月目以降に精巣に特異的な細胞性免疫反応を効果的に誘導した。初め処理魚の精巣の輸精小管間の間隙に侵潤した單球とリンパ球は次いで輸精小管壁を破壊し輸精小管内腔、さらには精小嚢内腔へと侵入し、單球はマクロファージに分化して精子を活発に貧食した。リンパ球は精子貧食作用はみせなかったが、ある種の細胞毒などの放出を介して精子の排除に一役を果たすとみられた。精細胞及び他の精子形成細胞の包嚢は侵襲されず、また体細胞の損傷もなかった。免疫化後3〜4か月の精巣では、精小嚢内腔に巨大細胞肉芽腫が形成されたが、それも精子形成の進行には阻害効果を及ぼさなかった。免疫化5か月目以降には、血清中には未だむしろ高いレベルの精子凝集価が維持されているにも拘らず、精巣での細胞性免疫反応は著しく減弱するかまたは完全に不明瞭化していた。正常雄に注射されたHRPはクロマチン凝集中期以降の包嚢を除く生殖細胞包嚢内に貫入したが精小嚢及び輸精小管の内腔には侵入できず、またBSAはいずれの包嚢にも貫入できなかった。電顕的解析により、閉鎖帯を主体とするセルトリ細胞同士の接着装置及び精小嚢外周の基底膜がこれらのトレーサーに対する関門として作用していることが確認された。この血液精巣関門は内腔に面するセルトリ細胞壁には常時存在したが、基底膜に面するセルトリ細胞壁ではクロマチン凝集中期の精細胞包嚢で初めて確立された。免疫化1か月後の個体の精巣ではHRP及びBSAが共に全ての発達段階の生殖細胞包嚢内へ、さらに精小嚢と輸精小管の内腔へと侵入しており、血液精巣関門の崩壊が電顕的にも確かめられた。
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