T細胞増殖因子であるILー2による細胞内シグナル伝達機構を解明する目的で、先ずヒトILー2依存性細胞株(ILTーMat)におけるILー2誘発蛋白リン酸化反応を調べた。ILー2刺激によって少なくとも5つの蛋白(pp67とpp63s)のセリン残基がリン酸化され、その作用は高親和性ILー2受容体(ILー2R)あるいはILー2Rβ鎖(p75)を介していることが分った。これら蛋白のリン酸化はCキナーゼ活性化剤であるTPAによっても誘導されることから、ILー2によるシグナル伝達系にCキナーゼの関与が示唆された。一方、ILTーMat細胞はILー2の代りにTPAによっても増殖促進された。これをもとに、TPA含培地を用いてILTーMat細胞を培養した処、TPA依存性増殖細胞株(TPAーMat)が樹立された。 TPAーMat細胞とILTーMat細胞は同一細胞クロン由来であり、TPAーMat細胞はTPA依存性で且つILー2依存性増殖能をも有していた。TPAによるTPAーMat細胞の増殖にはILー2の関与は否定され、TPAが直接細胞内増殖シグナル伝達機構に作用していることが明らかとなった。すなわち、TPAがCキナーゼを活性化させることによって増殖をシグナル伝達が惹起されていると推察された。そこで、TPAーMat細胞におけるTPA依存性増殖とILー2依存性増殖機構の異同について検討した。TPA依存性増殖は細胞内cAMPレベルの上昇によって90%以上抑制されるのに対して、ILー2依存性増殖は僅か10%の抑制を受け、両増殖機構に違いがあることが示唆された。以上の結果から、ILー2によるシグナルは高親和性ILー2Rから伝達されるが、その伝達機能はILー2Rβが担っている。ILー2Rβからの細胞内シグナル伝達系にCキナーゼが関与することを否定できないが、Cキナーゼを介さない伝達系の存在も示唆された。最近ILTーMat細胞からcAMP依存性増殖変異株(CTーMat)が得られたことから、ILー2Rβからのシグナル伝達とAキナーゼの関係が注目される。
|