本研究は、19世紀英国デザインについて異なった4つの観点から考察した。(1)ヘンリ-・コ-ルのデザイン改革、(2)小説に記述された生活様式と家政のテキストとの関係、(3)ラファエル前派とウィリアム・モリス、(4)ア-ツ・アンド・クラフツ・ム-ヴメント。 コ-ルがデザインの改革を試みたのは、18世紀までのパトロンと職人を失なった当時の産業デザインが極めて低俗であったからである。しかし活気に満ちた中産階級の姿を小説の中に描き出したチャ-ルズ・ディケンズは、コ-ルの改革に反発していた。小説の中の女性たちは、男性にとってのビジネスに匹敵する家政において能力を競った。家政における趣味のテキストが数多く出版され、デザインはそこで大きな発展を見せたが、そのような在り方は、生活の哲学としてデザインを考えようとする私たちの目に健全な姿とは映らない。有能な主婦のイメ-ジへの反発は、19世紀英国内部、ラファエル前派の絵の中で男性を破滅に導く「宿命の女」として息づいてくる。このラファエル前派にモリスが参画することによって近代デザインへの道を拓いてゆくことになる。中世ロマンスへの愛が彼にシンプルで美しい衣装や家具を制作させたのである。ラファエル前派の背景から近代デザインが生まれたと考えることが可能だ。モリスの影響を受けた若いクラフツマンは、ア-ツ・アンド・クラフツ・ム-ヴメントを展開し、チャ-ルズ・ロバ-ト・アシュビ-は、短期間ではあったが、働くものたちのユ-トピアをつくった。ルイス・F・ディの仕事は、19世紀英国産業社会に誕生したデザイナ-意識が、従来の職人とも芸術家とも異なることを示して興味深い。 以上の考察を通して、デザインが素材や形態や色彩を考量して生産活動を行なうにとどまらず、人生を如何なる物語にとりまとめるかに深くつながっていることが了解された。
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