東北・関東・近畿・九州各地方に所在する寄木彫像作品についてのエックス線透過撮影写真を大量に収集することができ、現在までのところ100点以上の作品について、それぞれの正面全身・側面全身のエックス線透過写真の集成を得ている。撮影フィルムはすべて現像を終え、さらに密着方式による焼付写真も作成し、各像正側二面からの全身影像が容易に観察できるように整理してある。 平等院(京都)の国宝・雲中供養菩薩像は、寄木彫像技法の完成者である定朝が制作した作品であるが、本研究でそのすべて52体についてエックス線透過撮影することができた。また早くに寺外に出てこれまで所在不明であった1体分についてもエックス線透過撮影を行った。したがって本研究においては、現存する雲中供養菩薩すべての正側二面エックス線透過写真を完備したことになり、今後はこの写真資料そのものが当分野の研究を大いに資するものと期待される。なお雲中供養菩薩像のエックス線透過写真のうち一部については、平等院大観(61年10月刊、岩波書店)に図版で公表した。 平等院・雲中供養菩薩像につぐ時期の定朝様作品については、11世紀末の即成院・来迎菩薩像8体と12世紀前半の安楽寿院・阿弥陀如来像のエックス線透過撮影を行い。その結果として従来から外面的観察を補足修正する新しい知見が得られた。また法隆寺聖霊院の国宝・聖徳太子像についてエックス線透過撮影を行い、本像の瞳には色ガラスが貼付されているなどの事実を発見した。さらに12世紀後半になってあらわれる新しい技工である玉眼の作品についてもエックス線透過撮影し、中尊寺・一字金輪像・円成寺・大日如来像など初期玉眼技工像の透過影像を収集した。大分県・長安寺の太郎天像では、12世紀における地方作例についてのエックス線透過影像を得た。
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