研究概要 |
ブラックホールの熱力学の基礎を成すホーキング輻射を, 一様加速系, 熱平衡状態, 重力崩壊する物体や動く鏡による輻射, ドウシッター時空, 等との関連に於て研究し, 以下の知見を得た. 1.ブラックホールの地平面の近くに静止した観測音は平坦時空を一様加速運動する観測者と同じ輻射を見ると考えてよいことが判っている. そこで量子場としてボーズ場を考えると, 後者は時空の次元の偶奇に応じてボーズ又はフェルミ分布した輻射をみる. フェルミ場なら逆になる. この現象は, 場の時間相関の解析性により理解され, かつ, 共形変換で一様加速系と結びつくアインシュタイン静宇宙に於る粒子状態密度と関連づけられる. 2.一般時空に於る量子場のエネルギー密度は場のグリーン関数の短距離展開の係数によって表現できる. これをブラックホールの周囲の時空に応用すると, 適切な等方性仮定の下で, 熱平衡状態に対する近似式が得られる. 3.重力崩壊の標準模型である塵球崩壊の二次元版を用いてホーキング輻射を調べた. 球の半径がシュヴァルツシルト半径γsの約3倍以下になると, 輻射強度は球の初期半径に殆ど依らない. 定常熱輻射に達するまでの過渡状態は約10γs/Cの時間続く. 対照的な模型である球殻崩壊の場合にも, 球殻の世界線が塵球表面と同じなら, 輻射は殆ど同じである. 4.重力場中を落下する鏡による輻射は, 崩壊する球殻による輻射と著しい類似性を示す. 又, 時間積分した全輻射量は, 共動観測者から見ると負だが遠方から見ると正である. 5.ドウシッター時空を次元の一つ高いミンコウスキー時空に埋め込むと, 前者に於る慣性観測者は後者に於て一様加速運動することが判っている. そこで, 両者に於る場の量子論を比較すると, 前者に於て重要な「ユウクリド真空」は後者の通常の真空に対応する. またこの状態に於る「粒子数」のスペクトルも, 適当な粒子の定義下で, 「熱的」となる.
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