本年度は細胞融合の対象として用いるリグニン分解菌の、リグニン分解酵素生産能が増強された変異株の誘導と、得られた変異株のプロトプラスト化を中心とした実験を行った。対象とした菌株は担子菌Phanerochaete chrysosporiumである。まず、本菌の分生胞子を紫外線照射し、リグニンパーオキシダーゼの生産が高濃度の窒素源の存在下でも抑制されない変異株を、我々が開発した簡便な色素検出法を用いて多数分離した。なお、この変異の確率は3×10^<-7>であった。これら変異株のある株は液体培養においても、高濃度のペプトン存在下でリグニンパーオキシダーゼを生産し、しかもその活性は親株のものよりも10-80倍高い値を示した。このような変異株は細胞融合による育種の素材として有望である。一方、変異処理によりリグニンパーオキシダーゼあるいはパーオキシダーゼの生産能を失った変異株も取得された。これらの変異も細胞融合の際の遺伝子マーカーとして有用である。さらに、アビセルなど、結晶性のセルロースに対する分解能の低下した変異株も得られた。以上のようにして得られた変異株は、前年度において設定したプロトプラスト化条件を十分適用できることを確認した。 分離された変異株の中には継代培養によりその形質が低下することが観察された。ギムザ染色法により分生胞子の核数を計数したところ、親株においての核数の割合が、単核、二核、三核、それ以上の多核が、14.9%、83.7、0.5および0.9%であり、単核胞子の存在割合が低いことが認められた。また、パーオキシダーゼ欠損株においては、さらに単核の割合が5.0%以下となることが認められた。融合株の形質を安定に保つためには、核数の制御が今後の問題であることが示唆された。
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