本研究では、リグニン分解性担子菌、特にPhanerochaete chrysosporiumを対象の中心として、これらのリグニン分解能の増強や改良に細胞融合法を適用するための基礎的な知見を得ることを目的とした。 まず、P.chrysosporiumの分生胞子を2日間前培養し、次いで新しい培地で20時間本培養して、得られた菌糸体をNovozyme234及びCellulase ONOZUKA RSの混合溶液を用いて処理することにより、プロトプラストを得た。プロトプラストの再生頻度は、約5%と算出された。本菌のプロトプラストの触合には従来のポリエチレングリコ-ル(PEG)法及び電気触合法が共に有効であり、後者の最適条件は、高周波電圧15v、印加時間20秒、パルス電圧300v、パルス幅50μ秒、パルス回数2目(1秒間隔)であった。本菌の栄養要求性変異株(3株)やパ-オシダ-ゼ欠損変異株を用いて、種々の組合せでプロトプラスト触合を行ったところ、栄養要求性の解除など両親株の形質を合わせ持つ触合株が取得された。これらの触合株は、数代の継代培養でも両親株の形質を比較的安定に維持した。本菌のプロトプラストはFITCやRITCにより蛍光染色され、これらは、蛍光顕微鏡下で識別可能であった。本菌のプロトプラストと、同じくリグニン分解担子菌であるCoriolus versicolorあるいはPleorotus ostreatusのプロトプラストをそれぞれFITC、RITCで染色して、PEG処理を行ったところ、異種間で触合するところが観察され、プロトプラストの蛍光染色が触合の指標として有効であること、また異種担子菌間での触合の可能性が示唆された。また、P.chrysosporiumとCoprinus aff ellisiiとの間でも電気触合により触合株選抜され、この触合株は、両親株各々に特有の、フェノ-ル酸化酵素(あるいはパ-オキシダ-ゼ、これらはリグニン分解に関与する)の生産性を示し、高リグニン分解能を有する可能性が示唆された。
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