糸魚川-静岡線および中央構造線に挟まれた破砕帯を流れる大井川と北海道の背骨をなす日高山地に源を発する沙流川を研究対象として、両河川の土砂移動を比較論的に検討した。流域の全体性を把握したうえで現象を理解するという意味で、研究は大空間から小空間のスケールに迫るという手順で進めた。方法論的には、流域という大空間のスケールでは地形学的方法、ある範囲の河川区間という小空間のスケールでは樹木年代学あるいは渓床変動計測等の砂防学的方法を用いた。 流域スケールでの両河川の土砂移動を比較すると、活発な隆起によって特徴づけられる大井川流域の地形と周氷河作用によって特徴づけられる沙流川流域の地形が、両流域の雨量、流量条件の違いと相まって、土砂の生産流出では、大井川が沙流川の10〜30倍という大きな差となって現われている。しかし小空間スケールでの調査からは、土砂移動現象は基本的には規模の大きな堆積とその堆積土砂のその後の洗掘再移動およびその堆積の繰り返しであるという点では共通している。しかもこのこの洗掘過程では、単位流量当たりの渓床変動量(S(t))が洪水時系列(tは発生序列、t=1、2…)に沿って指数関数的に減少する(Ca)式)という規則性を持っており、この変化は谷幅と密接な関係にある。これは河川が系として存在することによって河道自身がその形状を調整するためであると考えられる。そして独立変数を場の条件(谷床勾配、谷幅、地質的制約因子)と場への入力条件(流量、土砂濃度)とに分け、前者が定常状態(動的平衡状態)を最終的に規定するのに対して、後者は前者の変数が独立変数として発動するか否かを規定すると考えると、山間地渓流での土砂移動現象の説明が可能になってくる。なお、従属変数はこれまでどおり流路勾配、流路幅等の流路幾何形状である。 S(t)=αexp(-βt)………(a)
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