研究概要 |
高等動物中枢神経系の生理的興奮活動におけるグルコースの役割を解明することを目標にして, より単純な実験系であるザリガニの巨大神経を用い, グルコースによるleakage conductance(gL)の上昇のイオン機構を解明した. ザリガニの巨大神経を切り出し, 生理溶液(Van Harreveld氏液)中に固定した後, その中央部に通電用(2M K-citrate)および膜電位測定用(2M K-acetate)の電極を二本刺入し膜電位固定法(Hironaka and Ikari,1984,In MEMBRANE Permeability: Experiments and Models,Techs〓inc.,Adelaide,pp.97-100)を適用した. 膜電位を静止膜のレベルに保持した後, 膜電位変化をなるべく小さくし(gLの電位依存性が大きい為), これによって発生した微小膜電流を測定しgLを算出した. 1生理溶液中のNa^+をcholine^+に換えた場合, gLの変化はわずかであったが, K^4をRb^+に換えた場合は大きな変化を示した. 2グルコース500mMを投与した場合に生ずるgLの上昇はK^+をRb^+に換えた時著しく抑制されたが, Na^+をcholine^+に換えた時は認めるべき変化を示さなかった. 3gclの関与に関しては透過性の低い代換物質, 例えば, methylsulphate^-の入手が困難であったので今後さらに検討するが, これまでの予備的実験ではCl^-を他の透過性のより低い陰イオンに変えた場合のグルコースによるgL増大の程度におよぼす影響は小さいものであった. これまでの実験結果はグルコースがgKを増大させることによりgLを上昇させることを示唆している. このgLの増大はグルコースの作用濃度を考慮した場合決っして大きなものではないが, グルコースが高濃度に存在し, 時々刻々変化している事実を考えると, むしろ逆に生理的な中枢神経の興奮活動の調節を行なっている可能性が充分ある. 今後さらにこのイオン機構に厳密な検討を加える. またpatch clamp法を適用して興奮性膜に対するグルコースの抑制作用の分子機構を明らかにして行く予定である.
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