本研究はグルコースのleakage conductance増大作用におけるイオン機構をザリガニの巨大神経を用いて解明することを主な目的とした。2本電極による膜電位固定法で得られた結果については前年度の研究実績の概要で述べた。極めて微小なleakage currentを測定する実験であることから、細胞膜に電極を刺入しない、出来るだけin situに近い状態で実験を行なうことを試みた。その目的のために隔絶法による膜電位固定法を採用し、本実験の目的に副うように方法の改良を行なった。膜電位を電極を刺入することなく正確に測定し、通電電流の膜をよぎる成分を正確に測定するために次の二つの点について改良した。1)隔壁絶縁部(ワゼリン)を長くとり、その中間にパラフィンのプールを授入し神経細胞膜表面と絶縁剤のより密接な接触をはかることによりshort-circuiting factorの改善を可能にした。2)外側のプール内の膜の電位を、常法である、isotonic KClで脱分極させる代りに(完全な脱分極を仮定しているが、必ずしもその仮定は正しくない)、膜を切開してそのプールを人工細胞内液でみたす方法を考案した。殊に、後者はこれまで隔絶法による膜電位の絶対値測定は不可能とされていたものを電極の刺入なしに測定することを可能にしたものである。静止膜における性質を調べる実験であることから、holding potentialを静止膜電位に近い-85mVとし、5mVステップのパルスを±20mVの範囲内で加え、流れるleakage cureentを測定した。正常の生理溶液中でのグルコースによるleakage conductanceの増大の度合とK^+をCs^+、あるいはTMA^+、Cl^-をmethylsulfateで置換した場合のそれを比較することにより、グルコースのleakage conductance増大作用におけるイオン機構としては、主としてK^+の透過性増大によることが結論された。
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