研究概要 |
乳児ボツリヌス症は欧米はもとより我国においても発症例が報告されるようになり従来の偏性嫌気性有芽胞菌による腸管感染の分野に新しい問題を提起している. いうまでもなく本症はボツリヌス菌による腸管感染症であり, それ故症例の発現には栄養型菌の感染巣の形成が先行する. そのためには菌体表層と腸管上皮細胞における相互作用が重要な契機となる. 本研究ではボツリヌス菌の菌体表層の電顕学的, 免疫生化学性状, 特に表層蛋白抗原の生化学的性状を明らかにしその生物学的機能を追究した. すなわち, A型ボツリヌス菌の細胞壁より非極性デタージェント可溶画分を得, これをDEAE-セルロース, ハイドロオキシアパタイト, セファデックスG-100などを用いて抗原蛋白質を分画精製して分子量15万, 等電点4.7の標品を得た(S抗原). その結果S抗原が蛋白分解性ボツリヌス菌の共通抗原であり細胞壁最外層に局在する菌体表層蛋白質であることをフェリチン抗体法により免疫電顕的に明らかにした. E型ボツリヌス菌では菌体表層の規則的配列構造(RA)を細胞壁から4M塩酸グアニジン(GHCI)で抽出し, SDS-PAGEによりRAが分子量90Kと60Kの2種類の蛋白質から構成されることを明らかにし, イムノブロット法により両抗原が蛋白非分解性ボツリヌス菌の共通抗原であることを示した. 両抗原のアミノ酸組成は高い相同性を有し, 多くの他のRAと同様に酸性アミノ酸に富み含硫アミノ酸に乏しいという特徴を示した. 4MGHCI抽出画分をCa^<2+>存在下でトリス塩酸緩衝液(50mM, PH7.4)に透析すると径約40-280ηm, 長さ約1μm以上に及ぶ円柱状RAが再構成され, RAを欠く細胞壁鋳型に再付着することが電顕的に示された. プロティンA-金コロイド複合体法により菌体表層における抗原の局在性を免疫電顕的に観察した結果, 上記の両蛋白抗原は細胞壁の最外層に局在し, 菌表面全体に均等に分布していることが示された.
|