後周期遷移金属のアルコキシド錯体、チオラトを中間体とする有機合成反応の開発を目的として研究を行ったが。特に本年度は従来研究例が少なかったニッケル、パラジウム等のアルコキシド錯体、チオラト錯体を多数合成し、その性質を系統的に研究した。その結果、これら錯体の基礎的な反応性について重要な知見を数多く得た。 1.フッ素置換したアルコールとニッケル、パラジウムのアルキル錯体との反応で、これらの金属のアルコキシド錯体を安定に単離することができた。またチオールとアルキル錯体との反応から類似の構造を有するニッケル、パラジウムのチオラト錯体を合成した。 2.1.で合成したパラジウムのアルコキシド錯体は一酸化炭素に対して著しく高い反応性を示した。シス型の構造をもつメチルパラジウムアルコキシド錯体は-60℃においても一酸化炭素と反応して、パラジウム-酸素結合へ一酸化炭素が挿入したアルコキシカルボニルパラジウム錯体を生成することがわかった。これはこの種の挿入反応の初めての例であり、パラジウム触媒を用いるアルコール類のシルボニル化反応の機構と関連して重要である。 3.パラジウムに配位したアルコキシドの酸素原子の電子密度は高く、上記のパラジウムアルコキシド錯体にアルコールを加えると強い水素結合によってアルコールが会合した錯体が生成した。この会合現象についてNMR等を用いて詳細に検討し、有機合成反応でしばしば見られる金属化合物によるアルコキシド交換過程との関連を明らかにした。 4.パラジウムアルコキシド錯体の高い親核性に着目して、パラジウムアルコキシド錯体を触媒とするトランスエステル化反応を見出した。本反応は中世条件化室温で円滑に進行し、各種の有機合成反応への応用が期待される。
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