研究概要 |
病理では、生検・剖検などを通じて、多くの患者から多数の材料が入手可能であるが、その多くはこれまでホルマリン固定後保存されるため、以後の用途が限定されることが多かった。本研究では、病理材料の研究材料化を、特に分子病理学的研究に応用するため、1.生存細胞、2.未固定死細胞、3.ホルマリン固定材料について検討し、実用上の便を図ることを目的とした。第一に新鮮材料については、最も条件の良い培養細胞や実験動物材料を用いて、DNA、RNA、蛋白を変性無く採取、Southern,Northern,Westernブロット法でabl,myc ras,fos等の癌遺伝子の組み替えの有無、発現亢進や遺伝子産物の異常等について解析した。又、死後時間の異なる剖検材料から、DNA、RNAを抽出し、時間経過に伴う変性度や他の実験に使用しうる限界等を検討し、DNAは12時間、RNAは6時間までなら、以後の実験に十分使用可能である。一方、ホルマリン固定材料からのDNA抽出については、緩衝ホルマリン固定では比較的低分子化が起こりにくい。ホルマリン固定により低分子化が起こる機序の詳細な検討を行った。まず抽出、純化後にDNAをホルマリンで固定しても低分子化が起こらないことが確認できたので、ホルマリン固定によるDNA低分子化の機序を1.固定が完了するまでの間にDNase等が作用し低分子化する、2.ホルマリン固定により形成されたDNAと蛋白等の架橋が抽出操作時の機械的な力によりDNAを断片化するの二つの仮説について検討した。1.は門脈よりEDTAを含む緩衝ホルマリンで灌流固定すれば低分子化が起こりにくいことより、DNaseの影響がかなりあることが確認された。2.については、DNA・ヒストン再構成実験やPulsed field gel電気泳動による解析を継続中であり、まだ結論を得るには至らなかった。
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