研究計画においては、下記2点に目標を設定した。 (1)ヒトレンズ中に発ガン性アミノ酸熱分解物の存在を証明する。 (2)ヒトレンズ中の発ガン性アミノ酸熱分解物の分布と蛍光物質の分布との関連を明らかとする。 以上2点について研究を進めた結果、目標はほぼ達成できたと考えられる。レンズ中に、グルタミン酸熱分解物の他に、トリプトファン熱分解物の存在を初めて明らかとし、報告した。トリプトファン熱分解物のレンズ中の存在量は、グルタミン酸熱分解物のそれよりもかなり少なかったが、トリプトファン熱分解物は水に不溶の変性レンズ蛋白部分に集中的に存在しており、レンズ蛋白の変性との関連が示唆された。トリプトファン熱分解物の存在量は、糖尿病性白内障と老人性白内障において比較すると、両者の間には有意差は認められず、レンズ蛋白の変性量とトリプトファン熱分解物の含量が相関しており、上述のごとく、レンズ蛋白の変性との関連が考えられた。トリプトファン熱分解物のレンズ中の存在形態に関しては、レンズ蛋白を透析しても、トリプトファン熱分解物は除去できず、また蛋白分解酵素処理後、塩酸酸性下でなければトリプトファン熱分解物は遊離しないことから、トリプトファン熱分解物はレンズ中で蛋白と共有結合している可能性が大きいと考えられた。また以前から指摘されているレンズ中の蛍光物質の変性レンズ蛋白部分への集中は、トリプトファン熱分解物のレンズ内での分布と同様であり、強力な蛍光を有するトリプトファン熱分解物は、レンズ蛋白の変性と密接に関連していると思われた。今後の問題として、レンズ蛋白変性とトリプトファン熱分解物存在の関係およびトリプトファン熱分解物含量と年令との関連について検討する必要があると思われる。
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