研究概要 |
ヒトのレンズは、加齢と共にレンズ組織中に自家蛍光物質が増加することが知られている。しかし、このように加齢と共に増加する色素(老化色素)としてはバイチロシン、アントラニリン酸、ベ-タカルボリン誘導体が知られている以外同定されたものはなく、レンズ中の蛍光物質のごく一部しか解明されていないと考えられている。本研究では、ヒトのレンズの加齢現象の一つとして知られているレンズ中の自家蛍光物質の中から新しく4種の蛍光物質を同定し、加齢との関連を検討した。新しく同定した蛍光物質は、化学構造上複素環状アミンであり、従来知られている老化色素とはまったく異なるものであった。この複素環状アミンはグルタミン酸およびトリプトファンを熱分解した際に生ずる発癌性グルタミン酸熱分解物(Glu-P-1,Glu-P-2)および発癌性トリプトファン熱分解物(Trp-P-1,Trp-P-2)と呼ばれているものであることが判明した。これらは、加熱食品中に検出同定され、名前が示すごとく動物に対して強力な発癌性を有することが明らかにされている。更に、上記4種の複素環状アミンは、強力な蛍光を有し、レンズの白内障部分(変性レンズ蛋白を多量に含有)にこれらの含量が高いが、若い牛レンズ中には検出されないことを明らかとした。一方、試験管内実験よりヒトレンズ蛋白を一定条件で変性させると発癌性トリプトファン熱分解物が形成されることも明らかとなっており、これらの蛍光色素はレンズ内で作られている可能性が示唆された。以上の結果は、加熱食品中に存在する発癌性複素環状アミンがヒトレンズ中の老化色素の1つのグル-プとして存在していることを示すばかりでなく、これらの物質が発癌物質であることより老化と発癌との関係を研究する上での糸口になる可能性も示唆している。
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