研究概要 |
本年度の研究に於て二つのことが明らかとなった。まず、肝細胞癌患者の肝動脈塞栓療法(Transcatheter arterial emboliration,以下TAE)後に出現する家兎肝細胞膜と反応する抗体の標的抗原が家兎肝細胞膜の中性糖脂質分画にあることを明らかにし、本抗体陽性血清をプロ-ブとして本抗原糖質の精製をすすめた結果、TLC上単一のバンドが得られるまで精製することができた。精製抗原糖脂質はexoglycosidase処理、Negativeion FAB-MS、permethylation analysisによりN^3αGal-nLc_4Cerであることが明らかとなった。本糖脂質に対する抗体はTAE後の肝細胞癌患者の60%に抗体価の上昇がみられた。現在、本糖脂質に対するモノクロ-ナル抗体を作製し、肝癌細胞に於て本糖脂質の有無を検索中である。もう一つの抗体、すなわち、自己免疫性患者血清中の家兎肝細胞膜と反応する抗体の標的抗原についても検索をすすめた。その結果、硫酸を含む糖脂質eulfatideであることが明らかとなった。自己免疫性肝炎患者の90%以上に本糖脂質に対する抗体が陽性であり診断的有用性は極めて高い。しかし、本抗体はsulfatideのみならず、heparin、heparan sulfateなどのsulfated glycosaminoglycanとも反応した(しかし、chondroiton sulfate、dermatan sulfate、kerataneulfateとは反応しなかった)。heparin、heparansulfateは細胞表面成分として存在し、細胞外マトリックスと相互作用することにより細胞の分化、増殖に重要な役割を演じていると考えられている。従って、これらのsulfated glycosaminoglycanと反応することによりsulfatide抗体は肝細胞障害の発現に関与している可能性が考えられる。
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