痴呆に関する薬理学的研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63480477
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 植木 昭和 九州大学, 薬学部, 教授 (80037564)
• 研究分担者: 柴田 重信 九州大学, 薬学部, 助手 (10162629) ; 山本 経之 九州大学, 薬学部, 助手 (20091332)
• キーワード: 痴呆 / 記憶・学習障害 / スコポラミン / 脳虚血 / 脳切片 / 2DG取り込み / 抗痴呆薬 / 局部的脳破壊

研究概要

1.脳血管性痴呆に関連して、in vivoにおける脳障害モデルの作成を試み、単位時間当りの2ーdeoxyglucose(2DG)取り込み量を調べる方法を応用して、薬物の脳保護作用を検討した。ラットの背側海馬と頭頂葉皮質を厚さ450μmの切片に切り出し、これを低酸素+低グルコ-スのKrebs-Ringer液に5〜40分間浸した後、45分間の2DG取り込み実験を行った。10〜20分間の低酸素+低グルコ-ス負荷では海馬、皮質切片ともに負荷時間に応じた2DG取り込み低下がみられ、この時、外部から30mM KClで刺激すると正常時より弱いながらも2DG取り込み反応がみられた。この2DG取り込み低下に対する諸種薬物の作用を検討した結果、この脳機能障害はadenylate cyclase活性の低下、inositol脂質代謝回転の低下あるいはCaイオンの細胞内流入阻止を起こすような処置によって防止される可能性が示唆された。
2.3ーlever operant装置を用いてdelayed matching to lever location taskの学習法を考案した。これは3秒前に提示したレバ-の位置を覚えさせる遅延見本合わせ学習で、正しいレバ-を選択させるtest trialでのレバ-押し反応は嗅球摘出によって著明に障害されたが、これはphysostigminによって改善された。
3.昨年度に続き、3-panel runway装置を用いたラットの作業記憶実験ではACh神経毒AF64Aの投与、海馬や嗅球などの局部的脳破壊によっても著明な学習記憶障害が起こることを明らかにした。さらに抗痴呆薬を目指して開発中のminaprine、amiridin、tetrahydroaminoacridine、WEB1881などのコリン神経活性化作用を有する薬物はscoplamineや海馬破壊による作業記憶障害を改善することがわかった。S-adenosyl-L-methionineはscopolamineによる記憶障害には効果はなかったが、脳虚血による記憶障害には他の薬物と同様の改善効果を示した。

研究成果

• [文献書誌] 柴田重信: "視交叉上核神経の神経伝達機構" 精神医学. 31. 15-23 (1989)
• [文献書誌] S.Yatsugi: "Effects of S-adenosyl-L-methionine on impairment of working memory induced in rats by cerebral ischemia and scopolamine." European J.Pharmacol.166. 231-239 (1989)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "Inhibition of mouse-killing behavior by S-adenosyl-L-methionine in midbrain raphe-lesioned and olfactory-bulbectomized rats." Pharmacol.Biochem.Behav.4(2). 395-398 (1989)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "Minaprine inproves impairment of working memory induced by scopolamine and cerebral ischemia in rats." Psychopharmacology. 100. 316-322 (1990)
• [文献書誌] M.Ohno: "WEB1881 FU ameliorates impairment of working memory induced by scopolamine and cerebral ischemia in the three-panel runway task." Japan.J.Pharmacol.(1990)
• [文献書誌] 山本経之: "中枢神経系ー行動薬理学的方法および電気生理学的方法ー「機能毒性学」(福原武彦,小野宏編)" 地人書館, 551 (1990)
• [文献書誌] T.Yamamoto: "Effects of nootropic drugs on experimentally induced amnesia of rats using the three-panel runway task.In:Alzheimer's and Parkinson's Diseases(edited by M.Ito,F.Tanaka and M.Sato)" Plenum Press, (1990)