研究概要 |
本研究は、高等動物に特徴的な生体高分子である糖タンパク質において、糖鎖が如何なる機能を持つかを直接証明するための研究系として、魚卵を選び受精、発生の過程で顕著な変動を示す2,3の糖タンパク質に着目し、それらの化学構造を解析した上、分子レベルでの機能解明を目指すものである。本年度の実績を以下に記す。 1.表層胞局在糖タンパク質、本研究者は、1978年にはじめてニジマス卵にポリシアロ糖タンパク質を見出した。ポリシアロ糖タンパク質は、サケ科魚卵表層胞の主要糖タンパク質である。今回、ヒメマス卵ポリシアロ糖タンパク質のポリシアリル基でO-アセケル置換によりシアリダーゼ抵抗性を示すことを明らかにし、O-アセケル置換ポリシアリル構造を解析した。この構造は未知の新しいものである。 サケ科以外の魚卵(淡水および海水産卵)の表層胞局在糖タンパク質を単離精製し、構造解析を行った。サケ科以外の魚卵では、ポリシアロ糖タンパク質とは全く異った糖鎖構造をもつ表層胞局在糖タンパク質が主要であった。一方、これらの糖タンパク質のタンパク部分の構造は異科の魚族間でも類似していた。すなわち、糖鎖構造が進化の過程で大きな変化を遂げており、表層胞局在糖タンパク質は産卵環境への適応と密接な関連のある分子であることが推測された。 2.糖タンパク質由来遊離糖鎖の蓄積とその意義。ある種の魚卵に多量の糖タンパク質由来、シアロオリゴ糖が蓄積されているのを見出し、その構造を決めた。これらのシアロオリゴ糖は、表層胞局在糖タンパク質の糖鎖とは構造が異なり、ホスビチンの糖鎖構造と一致した。このことから、卵細胞の成熟の過程に起るビテロジェニンの生合成・修飾・移動および代謝において糖タンパク質の糖鎖が直接調節的機能を果していることが推定され、今後の研究の重要な糸口がつかめた。
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