本研究の目的は、パスカルの不可分幾何学の業績とジャンセニズムの信仰とがいかなる関係にあるのかを解明することを通じて、パスカルの独自な思想構造を明らかにすることである。このためには次の三つの課題を解決することが必要である。第一。パスカルが不可分幾何学において無限を処理する特徴的な仕方を解明する。第二。この仕方がどのような根拠から可能になったかを明らかにする。第三。この根拠がパスカルのジャンセニズムの信仰にどのような仕方で依據しているのかを解明する。今年度の研究は、第一にまずパスカルが個々の問題について不可分幾何学の操作をどのように展開しているかを検討した。この検討を通じて、無限を処理する彼の仕方にいかなる特色があるかを確定した。次に、かれの不可分幾何学において〈正弦の和を求める問題〉と〈ルーレットの求長問題〉とに用いられている特性三角形が、かれの無限把握においていかなる役割を果しているのかを明らかにした。そして、この三角形の三辺が無限に小なるものでありながら、同時に固定的様相をもって有限三角形と相似になる点に注目して、かれの無限小概念の独自な性格を把握した。第三に、かれの無限把握において中核的な役割を果すこの特性三角形が成立するためには、いかなることが必要あったかを問題として、トルチェリーの不可分幾何学の仕事に注目し、トルチェリーの不可分とパスカルのそれとがいかなる点で同じであり、いかなる点で異なるかを検討した。第四に、彼が自分の不可分概念を哲学的にも根拠のあるものであることを確信してゆく過程を検討した。この点に関しては、とくに彼の友人で原子論者であったシュヴァリエ・ドゥ・メレの批判と、これに対するパスカルの反論とを中心に分析した。 以上の四点を明らかにすることを通じて、今年度は第一の課題であったパスカルの無限把握の独自な仕方を明らかにした。
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