昭和63年度の研究成果は以下の通りである。 (1)遷移金属表面とその吸着子系 メタステーブル原子電子分光(MAES)に用いる超高真空槽、エネルギー分析器、原子源等の調整を終え、Ni(100)-CO系の測定を開始した。この表面(θco〜0.6)では、He^*(2^3S)原子はペニングイオン化過程を経て脱励起すること、またスペクトルには吸着子準位(CO4σ、5σ、1π、2π^*)からの電子放出のみが選択的に出現することが判った。特にUPS等の手法では下地の3dバンドからの放出に重なってしまうNi3d→CO2π^*逆供与準位の存在が明瞭に認められた。この系については現在、S/N比の向上、試料冷却機構等の改良をおこなっている。 (2)金属錯体 吸着系のモデル化合物としてCr(CO)_6、Cr(C_6H_6)_2を取り上げ、MAESの測定をおこなった。分子軌道計算等に基づいて、スペクトルの帰属をおこない、Cr3d軌道及び配位子軌道の空間分布に関する知見を得た。その結果、3d軌道の拡がりと表面におけるメタステーブル原子の脱励起過程には強い相関があることが判った。 (3)グラファイト 2次元物質の典型であるグラファイトのMAESを測定した。MAESではUPSと異なり、価電子帯のエネルギー分散の効果は平均化されてしまうこと、真空側に大きな電子分布をもつπバンドのみが選択的に観測されること、さらに共鳴イオン化がπ^*バンドの対称性から抑制されてしまうこと等を見い出した。 (4)Si(111)7×7 現在、データの蓄積を図っているが、メタステーブル原子は共鳴イオン化、続いてオージェ中和の2段階過程を経て脱励起する。
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