研究概要 |
我々はこれまでに、中枢神経細胞膜に局在するCl^--ATPaseがCl^-を輸送する可能性のあることを報告してきた。本研究では、上記酵素活性の高い脳ミクロソームで、ATP依存性にCl^-が輸送されることを証明した。脳ミクロソームは、ラット全脳からEDTA処理法により調製し、Cl^-取り込みは^<36>Cl^-を用いてミリポアフィルター法により測定した。ATPは用量依存的に脳ミクロソームへのCl^-取り込みを増加させ、取り込み速度はATP濃度3mM以上で最大となった。このATP依存性Cl^-取り込みは、インクベーション時間と共に増加し、反応開始後2分でプラトー値に達した。ATP非依存性Cl^-取り込みは、反応液pHの上昇(pH6.2→9.0)に伴いやゝ減少するのに対し、ATP依存性Cl^ー取り込みは反応液pH7.4で最大値を示した。非加水分解性ATP類縁体であるβ,γ-メチレンATPは、ミクロソームへのCl^-取り込みを増加させなかった。一方、ATP依存性Cl^-取り込みは、40mMNa^+、K^+またはHCO_3^-により影響を受けなかった。また、ATP依存性H^+輸送を阻害するDCCD(1mM)およびアミロイド類縁体(100μM)は、ATP依存性Cl^-取り込みに影響を与えなかった。 これらの結果から、脳ミクロソームにATP加水分解を伴うCl^-輸送機構が存在すること、および、このATP依存性Cl^-輸送がNa^+またはK^+との共輸送やHCO_3^-との交換輸送によるものでなく、ATP依存性H^+輸送に伴うものでもないことが明らかになった。今後、このATP依存性Cl^-取り込みとCl^--ATPaseとの関係を明らかにするための実験を行う予定である。
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