研究概要 |
腎炎を物質沈着という立場から考えるとき,蓄積症の一つであり,進行して尿毒症に至る遺伝性腎炎としてFabry病がよく知られている。この疾患では糸球体上皮細胞にCeramide trihexoside(CTH)が非免疫学的に沈着する。我々は特定な糖脂質抗原の糸球体上皮細胞内増加とその免疫原性が糸球体腎炎の進展因子として重要であると考えた。我々の成績では免疫組織化学的にSulfatideは正常腎組織の主に遠位尿細管、ヘンレ脚,集合管に強く,近位尿細管に弱く染色されたが,糸球体には染色されなかった。一方,巣求分節性糸球体硬化症(FSGS)やIgA腎症の一部では,Sulfatideが糸球体上皮細胞にも染色されることが明らかとなった。正常糸球体では尿細管に比しarylsulfatase活性が高いためにSulfatideが認められない。腎疾患組織でのSulfatide抗原の糸球体内上及細胞内への分布がなぜ起こるかは十分に明らかではない。ラットを用いた実験では片腎摘出により残存肥大腎に、代償性変化に伴うsulfotransferaseの活性化が生じ,Sulfatide含量が上昇することが報告されている。各種の腎疾患発症時においても個々の糸球体に生じる初期の病変は不均一であることから,いわゆる糸球体肥大と糸球体硬化を特徴とする「残存ネフロン」の概念が,近年,共通の機序を説明する上で受け容れられつつある。Sulfatideは腎,脳,網膜,毛様体,消化管に豊富で,細胞膜表面に含有されている。その機能としてはラミニンやトロンボスポンジンなどの細胞接着に関与する蛋白質の細胞側レセプタ-であることが注目されている。そのほかアンチスタシン,Von Willebrand因子,B^2ーグリコプロティンI,IV型コラ-ゲン,プロパ-ジン,あるいは単純ヘルペスIやMycoplasma pneumoniaeなどがSulfatideに結合するといわれている。抗Sulfatide抗体に関しては,特発性血小板減少性紫斑病や自己免疫性肝炎などでその抗体価の上昇が報告されている。腎疾患においてSulfatideの免疫原性を論じたのは他にみられぬ。
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