研究概要 |
癌の放射線治療成績向上のために,治療開始後早期に腫瘍組織の生理学的因子を推定し,また腫瘍細胞の生死を予知するための先行指標も得るための手がかりとして,実験(マウス)レベルで,非侵襲的なNMR分光法による解析が行われた。核種は31P(リン)で,高エネルギーリン酸やリン脂質の代謝変化より腫瘍組織の治療後の感受性を探ろうとするものである。マウスfoot padに植えたNR-S1腫瘍に,単独照射(25Gy,50Gy,100Gy)および分割照射(2.5Gyずつ20回分割および5.0Gyずつ10回分割)を試みた。腫瘍の成長課程では,腫瘍の増大とともに,無機リンの上昇,クレアンチンリン酸の減少,PHの減少を認めたがATP総量では顕著な変化を認めなかった。これらは腫瘍組織の嫌気生代謝経路ていし低酸素状態への移行を示唆しているものと思われる。単独照射群では,照射直後Pi/PCr値が軽度上昇を示したあと2.3日後にて,極小傾向を示し,25Gy照射では,のち上昇傾向50Gyおよび100Gy照射では,その後減少傾向を呈した。腫瘍組織は、照射後再酸素化を呈するといわれており,このPi/PCr値の極小とあわせエネルギー代謝になんらかの変化がみられたことと考えあわせ興味深い。均等分割照射群では,照射直後のPi/PCr値の上昇は単独照射群に比し,やや低値を示し,また2,3日後の極小傾向も単独照射ほど顕著な変化を呈さなかった。放射線治療において,組織内酸素濃度は重要な役割を果たす。この意味において,これら高エネルギーリン酸の挙動をモニターする事は,よりよい照射のタイミングを探る上で重要と思われた。今後RBEの高いニュートロンによる照射後の変化および分割照射との関係について,再酸素化の問題をからめて,この検査法の有用性についてさらに研究を進めたい。
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