公募研究
本研究ではファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造におけるスピン-電荷変換を目的としている。申請者はこれまでに層状構造をもつ強磁性体Fe0.25TaS2(FTS)をスコッチテープ法によってナノ薄膜に劈開することに成功している。さらに劈開した薄膜が低温で垂直磁気異方性をもつ強磁性体となることを見出した。vdWへテロ構造とスピントロニクス、特に電気伝導とスピンに関する研究はこれまでにほとんど例がなかった。本研究では層状強磁性体FTSを用いることにより原子層科学とスピントロニクスの融合を目指す。研究初年度はFTSを用いたvdWへテロ接合の作製を行い、vdW界面におけるスピン-電荷変換の研究を行った。その結果以下のような成果を得た。1) 2つのFTS同士をvdW力により接合したFTS/FTS界面におけるトンネル磁気抵抗効果(TMR)を観測した。(論文発表)2) FTSと非磁性層状物質(グラフェン)のvdW接合の作製に成功した。3) 新規の強磁性層状物質絶縁体(CrGeTe)のナノ薄膜化に成功した。1)の成果により層状物質強磁性体FTSからFTSへvdW界面を通してスピン偏極の注入、検出に実現しvdW界面のにおける電気的スピン-電荷変換が達成されたと言える。2)の成果におりFTSと他の層状物質のvdWヘテロ構造におけるスピン-電荷変換の可能性が開け翌年度の研究への展開が期待される。3)の成果によりFTS以外の層状物質を用いたスピン-電荷変換の可能性が開け翌年度の研究への展開が期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究計画では2年間で以下のような3段階で研究を行う予定であった。1)Fe0.25TaS2(FTS)および他の層状物質vdWヘテロ構造の作製とスピン-電荷変換2)YIG/ Fe0.25TaS2およびSi/ Fe0.25TaS2へテロ構造におけるスピンポンピングの観測3)層状強磁性体Fe0.25TaS2と他の非磁性材料のvdWヘテロ界面における熱スピン注入1)のFTS及び他の層状物質ヘテロ構造作製とスピン-電荷変換に関しては、FTS/FTSにおけるTMR効果の観測を本年度達成しており、計画通り実現されたと言える。2),3)のスピンポンピング及び熱スピン注入の実現に向けて本年度はFTSとグラフェン、及び新規層状物質CrGeTeとグラフェンのヘテロ接合の作製に成功した。本研究において、測定技術はすでに他の研究グループにより報告されておりそれらの研究を参考にすれば実験は順調に行えると当初より計画している。測定技術よりも前例のない層状物質どうしのヘテロ構造作製の方が参考にできる資料が少なく、困難であると考えていたため、初年度でデバイス作製技術を確立できたことは大きな成果である。作製したデバイスを用いて翌年度以降は、熱及びスピンポンピングを用いたvdW界面におけるスピン-電荷変換技術を確立することが可能になると考えている。これらの結果より研究は順調に計画どおり進んでいると判断した。
次年度は以下のような計画で研究を進める予定である。1) YIG/ Fe0.25TaS2およびSi/ Fe.25TaS2へテロ構造におけるスピンポンピングの観測強磁性絶縁体YIG上にFTSを転写することによりYIGからFTSへのスピンポンピングを行う。FTSは強磁性体であるため、数十ミクロン程度の大きさの試料でも以上ホール効果によりスピン注入を確認できる。vdW界面を介したスピンポンピングの実現を目指す。さらにSi等の半導体上へFTSを転写しそのvdW界面を通したFTSからSiへのスピンポンピングも視野に入れる。成功すればvdWヘテロ界面を通したスピンポンピングの初めての結果となる。3)層状強磁性体Fe.25TaS2と他の非磁性材料のvdWヘテロ界面におけ熱スピン注入vdW接合は界面での結合を持たないため熱伝導率が非常に小さい。よって層状強磁性体FTSと非磁性体とのvdWヘテロ界面には大きな熱勾配を達成することができるはずである。この熱勾配によりスピンを注入する熱的スピン注入の実現を目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 10616-1, -5
doi:10.1038/ncomms10616
Applied Physics Letters
巻: 107 ページ: 103107-1--4
10.1063/1.4930311