公募研究
量子スピンアイス系物質Yb2Ti2O7は、量子スピン液体近傍に位置する強磁性絶縁体であり、ボーズ統計に従って電荷0・スピン1/2を運ぶ準粒子である磁化の単極子(モノポール)が、非閉じ込め量子スピン液体からHiggs閉じ込め強磁性相に極低温で相転移するという描像をこれまでの研究で確立してきた。当該年度では、その簡単化した理論模型における数値シミュレーションから、その量子スピン液体領域においては、スピノンのほか、量子電磁気学における光子に類似した励起子がよい準粒子として振る舞い、低温でスピン・熱輸送に寄与することの数値的検証に世界で初めて成功したことを磁性国際会議(International Conference on Magnetism)で講演し、論文をPhysical Review Letters誌に出版するとともに、関連したプレスリリースを行った。さらに、YbをTbに置換した物質Tb2Ti2O7も、我々の提唱する量子スピンアイス模型に基づいて量子スピン液体と秩序相の量子相転移近傍に位置することを実験の解析から示し、論文をPhysical Review Letters誌に投稿して受理された。また、Yb2Ti2O7の低温Higgs強磁性相と高温非秩序相の接合系では、ボーズ凝縮したモノポールのsupercurrentのために、超伝導における電荷をモノポールに置き換えた散逸のない諸現象が期待される。当該年度では、この接合系でのスピン・熱輸送係数、干渉効果の計算について、数値シミュレーションのコード開発に従事した。特に、モノポールがボーズ-アインシュタイン凝縮しているHiggs強磁性相と、していない非秩序相におけるモノポールと光子の励起に対する数値シミュレーションのコード開発を完了した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた接合系の数値計算は計算結果はまだ得られていないものの、コード開発までほぼ完了しており、本格的な計算に取り掛かるところである一方、現実の物質系と理論模型の対応という点では予想以上の進展を見せている。
量子スピンアイス系のHiggs強磁性秩序相と非秩序相の様々なナノ接合系を理論的に多角的に考察する。片側の接合面へ注入したスピン流を、Yb2Ti2O7の秩序状態におけるスピノンの巨視的コヒーレンスを介して、逆側の接合から取り出す現象、同時に磁気電気効果を介して電気分極を誘起する現象、および、接合の両側に与えた温度差やスピン蓄積の差に対するモノポール流とスピン流の応答について、数値シミュレーションを行い、散逸のない革新的スピン変換・制御機能の理論的発見を目指す。手法として、バルクの量子スピンアイス系に対して構築した理論的枠組みに基づいて、モノポールに対するリカーシブグリーン関数の方法を用いる。計算結果を吟味し、実験での検証に向けた提案をする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Physical Review Letters
巻: 未定 ページ: 未定
巻: 115 ページ: 077202/1-5
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.115.077202
http://www.riken.jp/en/research/rikenresearch/highlights/8138/
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150821_2/