研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
15H01083
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
齊藤 尚平 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (30580071)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 液晶 / 接着 / 光剥離 / Light melt adhesive / アントラセン / π共役分子 / 光二量化 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
「光で硬い物質が溶ける」という現象は報告例が限られており、新しい光剥離メカニズムによる機能性接着剤としての用途が期待されている。研究者は、アントラセン骨格の光二量化反応を利用して、新たに光剥離機能をもつ液晶材料を開発した。液晶化合物は、光剥離型接着剤に求められる以下の3点の要求をクリアする性能を示した。① 高温環境下でも1 MPa以上の接着力を保つ、② 光照射によって大幅に接着力が低下する、③ 迅速な光剥離を起こす。この中でも、耐熱接着性(条件①)は重要であり、既に普及しているHot melt型の仮固定剤(加熱して剥がす接着剤)が使えない高温環境において実用上の優位性が期待できる。 これらの優れた性能には以下の分子技術が活かされている。すなわち、① 特有のV字型分子のカラムナー集積構造により、液晶であるにもかかわらず高い凝集力を示し、それゆえ高い接着力(室温で1.6 MPa, 100℃でも1.2 MPa)を実現している。② 光二量化により得られる化合物がカラムナー集積には不向きな分子形状をしているため、液晶特有の自発的構造崩壊が進み、接着性に乏しい流動性液体(0.2 MPa以下)となる。③ 鋭敏かつ迅速な光二量化反応により、少ない光量(320 mJ/cm2)で薄膜界面の液化が可能であり、UV-LEDをもちいて2-3秒のうちに剥離させることができる。さらに、④ 170℃以上の加熱により光二量体が単量体へ戻るため、リサイクル可能である。⑤ 二量化に伴い発光色が変化するため、接着力を保有した状態と消失した状態を目視で判断できる。開発した液晶化合物が示した光剥離接着剤としての高いパフォーマンスは、液晶材料の新しい応用技術の可能性を提示するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来の仮固定用の接着材料には、熱で剥がすタイプの接着材料(ホットメルト型接着材料, Hot melt adhesive)が幅広く使われているが、高温環境では接着力を失ってしまうという使用上の制約がある。これに対し、光で剥がせるタイプの接着材料として、光を当てると溶ける材料の応用が期待されていたが、「光で剥がす機能」と「高温環境でも接着する機能」を両立する材料の開発は困難であった。 本研究では、独自に光応答性の機能分子を設計・合成し、自己凝集力が高いカラムナー液晶として展開することで、「光剥離機能」と「高温接着機能」の両方を実現する新しい仮固定用の接着材料(ライトメルト型接着材料, Light melt adhesive)を開発することに成功した。この成果は現在論文投稿中であり、公開にあわせてプレスリリースを実施する予定である。今後は半導体の製造プロセス等さまざまな製造工程の接着材料として、応用展開が期待され、すでに化学系企業との共同特許出願を終えている。 以上の研究成果は、凝集系における分子の凝集力を光で操作しただけでなく、高温環境でも使える「光で剥がせる接着剤」の開発に成功し、その分子構造と材料性能の相関を明らかにしたという点において、本新学術領域の達成目標とする「高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築」に合致するものである。さらに、産業用途としても有望であり、実際に化学系企業との共同研究にも発展したことなどから、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
カラムナー液晶のように分子間相互作用を強くすると材料自体の凝集力(cohesive force)が向上して接着力があがったというのは、凝集破壊が起こる系においては納得できる結果である。しかし一方で、接着剤と基板の界面における相互作用(adhesion force)については、分子論的な理解がなされていない。これについて、シミュレーション計算化学の研究者と共同で理解を深める。また、液晶中で光励起された分子の高速なコンフォメーション変化について、最先端のフェムト秒電子線回折法を駆使して、共同研究により解き明かす。また、応用技術的な展開としては、化学系企業と連携して共同特許出願に至った。現在、製品化をめざした応用展開を模索している。
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備考 |
2016年2月29日をもって名古屋大学物質科学国際研究センターの助教職を退職し、同年3月1日から京都大学大学院理学研究科の准教授に着任して研究を遂行した。
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