研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
15H01086
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 孝史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60324745)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シングレットフィッション / 太陽電池 / 一重項ビラジカル / 芳香族化合物 / 三重項励起子 |
研究実績の概要 |
本研究は、1光子で2つの長寿命励起子(三重項励起子)を生み出すシングレットフィッション(以降、SF)という励起子分裂現象を用いて有機薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させることを最終目標とし、そのために高効率でSFを引き起こす物質の開発とSFの機構解明を行うことを研究目的としている。 新規SFクロモファーの設計にあたり重要な概念になるのが、化合物の一重項ビラジカル性である。ビラジカロイド化合物は基底状態における一重項ビラジカル性により励起三重項状態がエネルギー的に低くなり、SFを引き起こすための最も基本的な条件であるE(S1)~2E(T1)のエネルギーマッチング条件を満たす。H27年度は、分子内に特徴的な骨格を有する3つのタイプの新規ビラジカロイドの開発に注力した。 1つ目は、分子内にo-キノイド構造を有する分子(シグマレン)である。現在、最終目標化合物の前駆体まで合成が完了し、脱水素反応により目標化合物の単離を試みている。2つ目は、フルオレニルをアセチレンで接続した分子で、合成・単離に成功し、過渡吸収測定により結晶状態におけるSFの検証を行ったが、残念ながらSFの発現を確認できなかった。3つ目はペロピレン誘導体で、新たな合成ルート開発により、異なる置換基を有する様々な誘導体の合成・単離に成功したが、過渡吸収測定の結果、この化合物もSFの発現を確認できなかった。 H28年度は、一分子内に複数個のSFクロモファーを有する化合物の合成を試み、分子内SFの発現を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在我々は、分子内に特徴的な骨格を有するビラジカロイド型SFクロモファーの開発に注力している。 ペロピレンはSFのエネルギーマッチング条件を満たす有力なSFクロモファーであるが、無置換体はSFを起こさないことが明らかになっている。そこで、結晶構造を変える目的でペロピレンに置換基を導入する合成法を確立し、実際に結晶中でのパッキングを変えることにも成功した。各種誘導体の過渡吸収測定を行いSFが起きているかどうかを検証したが、今のところSFは確認できていない。 また、骨格の全く異なるSFクロモファーとしてフルオレニルをアセチレンで接続した分子を設計し、合成・単離に成功した。過渡吸収測定により結晶状態におけるSFの検証を行ったが、この化合物もSFが確認できなかった。 さらに、骨格内にo-キノイド構造を有する分子(シグマレン)の合成も試み、最終目標化合物の前駆体まで合成が完了した。現在、脱水素反応により目標化合物の単離を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
o-キノイド構造を有する分子(シグマレン)の合成は、引き続き単結晶状態での単離を試み、結晶構造決定ののちにSFの検証を行う。また、フルオレニルをアセチレンで接続した分子については、フルオレニル部を他の骨格に変更した化合物の合成を試み、単離後にSFの検証を行う。 一方、全く新たな試みとして、SFクロモファーを分子内に複数個有する化合物の合成も試みる。分子のパッキング様式に影響を受けやすいSFの欠点を補うため、分子内SFを引き起こさせるのが狙いである。SFには太陽電池への応用以外の使い方も想定されることから、その足がかりとなる結果を得るのが目的である。
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