研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
15H01087
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 直 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70311769)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光化学 / 有機化学 / エキシプレックス / 励起CT錯体 / 不斉反応 / 励起状態相互作用 / キロプティカル特性 / 高次励起状態 |
研究実績の概要 |
電子受容体と供与体の間で基底状態で相互作用(CT相互作用)が生じた場合、長波長側に新しい吸収帯が生じる。このCT錯体の波長選択的な励起により、エキシプレックスとは異なる励起状態錯体が生成できる。この励起CT錯体は基底状態構造を反映した構造と反応性を有するため、立体選択性も通常のエキシプレックスとは大きく異なる。このことは、いわゆるKasha則とは異なる現象であり、これまでは光反応に積極的に活用できてはいなかった。この高次励起状態をうまく活用し、不斉光反応の制御法として確立することができれば、多様で複雑な構造を有する光反応特有の骨格形成において、有効な手段となり、物質科学、製薬など様々な分野での活用が期待される。 本年度は、これまで予備的に検討を進めてきた分子内、並びに分子間のCT系に関して、生成物の単離・精製・同定を進めるとともに、生成物として得られる環化体ジアステレオマーのHPLCによる分離条件を確定し、詳細な光反応の検討を可能とした。また、実際に、種々の条件下での光反応を検討し(特に溶媒や温度効果)、反応の立体制御にかかわる活性化パラメーターを導出し、これまでの類似系と比較検討することで励起錯体の構造に関する知見を得ることに成功した。 本年度はおおむね当初計画通り順調に研究が進んだため、これまでに得られた知見を、国内外の学会で公表するとともに、Science誌、J. Am. Chem. Soc.誌 3報を含む計7報の原著論文として報告した。また、これらの成果が認められ、多数の国際学会において招待講演を行う機会を得るとともに、さらに発展的な共同研究への足掛かりをつけることができた。また、領域会議等の機会を有効に活用し、新しい共同研究をスタートし、すでに一部の成果が上がりつつある段階となった。今後もさらに大きく研究を発展させたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はおおむね研究計画の初年度の予定通り進展したと考えている。そのうち、キラル化合物の基底状態、励起状態の相互作用に関連する成果が顕著であり、業績欄に記載の通り、原著論文としては、Science誌、J. Am. Chem. Soc.誌 3報を含む計7報の報告を行ったほか、多数の国際学会において招待講演を行う機会を得るなど、予想をはるかに上回る成果となった。また、これらの国際学会の機会でさらに発展的な研究への足掛かりとなる複数の共同研究の打ち合わせも行うことができた。さらに、領域会議等の交流を通じ、新たに領域内での共同研究を二つ立ち上げ、そのうちの一つに関しては初期的な成果としてJ. Phys. Chem. A誌に報文1報を報告することができた。このような背景から(1)の当初計画以上に進展している、の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究に関してはおおむね計画書に記載の通り順調に進展したと考えており、翌年度も当初計画通りの研究推進を予定している。具体的には、基底状態の相互作用の増強が励起状態錯体形成やその構造にどのような影響を与えるかを検証すること、励起状態で大きな構造変化をするような基質でエキシプレックスの構造変化にどのような影響を与えるかを検証することを計画している。また、これまでにあまり注目されていなかったトリプレットのエキシプレックスが立体制御の点で有用かどうかも併せて検討し、不斉合成反応としての有効性を検証する予定である。さらに、ルイス酸触媒を用いた電荷移動相互作用の制御と、その光反応の波長制御に関してさらに検討を進めたい。なお、国内外の共同研究もさらに積極的に展開し、これまで以上の研究推進を目指す。得られた成果は、一義的には原著論文への投稿、さらにはホームページや学外授業・講演などで広く広報活動に努めたいと考えている。
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