研究実績の概要 |
有機薄膜や分子集合体内での励起子とキャリア電荷(正孔と電子)に関する生成・移動の制御は光エネルギー変換分野で非常に重要な課題である。本研究の一つとして、光エネルギー系への展開を視野に自己組織化単分子膜法(SAMs法)を用いた有機無機ハイブリッド材料の励起ダイナミクス制御に取り組んでいる。本研究で用いる色素修飾チオール単分子膜で保護された金属ナノ粒子(monolayer-protected gold clusters: MPCs)の重大な問題点として有機色素を励起した場合、迅速なエネルギー/電子移動による金属表面への著しい励起子失活(報告例の多くは90%以上の蛍光消光)が挙げられる。また、項間交差に伴う励起三重項の形成もほぼ皆無である。そこで本研究では、金表面上で高効率かつ長寿命の励起子の形成を目指して一重項分裂の利用に着目した。具体的には、異なるアルキル鎖 (n = 7, 11)と粒径 (X = S, L)を有するTIPS-ペンタセンアルカンチオール修飾金ナノ粒子(TP-Cn-X-MPC)と種々の参照化合物を合成し、時間分解分光法を用いて高効率かつ長寿命な励起子生成を確認した。TP-C11-S-MPCのフェムト秒吸収スペクトル測定をトルエン溶液中で行った。励起波長600nmで光照射後、数psから20ps程度の時間領域でTIPS-ペンタセンのT-T吸収に対応するシグナルが観測され、一重項分裂の進行が確認された。TP-C11-S-MPCの三重項量子収率は172%と決定することができ、金表面上へのエネルギー失活を抑え、ほぼ量論的に一重項分裂が進行していることが明らかとなった。
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